劇場公開日 2012年3月1日

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ヒューゴの不思議な発明 : インタビュー

2012年2月17日更新
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マーティン・スコセッシ監督、ほとばしる映画愛で達した新境地

「タクシードライバー」「レイジング・ブル」「グッドフェローズ」、そして「ディパーテッド」。多くの暴力映画の傑作を世に送り出してきた巨匠マーティン・スコセッシだが、新たな代表作となったのは自身初となるデジタルキャメラで撮影した心温まる3Dアドベンチャー「ヒューゴの不思議な発明」だった。このほど、本作のプロモーションのため、巨匠自らが来日。本年度のアカデミー賞で最多11部門のノミネートを受けている本作について語ってくれた。(取材・文:藤井竜太朗/撮影:堀弥生)

(C)Paramount Pictures 2011
(C)Paramount Pictures 2011

1931年のパリを舞台に、リュミエール兄弟、ジョルジュ・メリエスといった映画メディア黎明期の偉人たちへのオマージュがちりばめられた本作。博覧強記の映画狂であるスコセッシらしい題材だが、製作の直接的なきっかけとなったのは「自分の娘のために1本くらい撮るのも悪くないんじゃない?」という妻の一言だったという。

「たしかにこの映画では『映画への愛』が重要なテーマとなっているが、私がこの映画を作ろうと思ったのは『映画愛』とか『映画のありがたみ』を伝えるためではなく、単純に娘のために作るということが目的だったんだよ。私の末娘はいまちょうど12歳で、私が69歳。『あとどれくらい家族と一緒に過ごせるのだろうか』ということを考える中で今回の企画に出合ったんだ。原作のメインキャラクターとしてメリエスが登場していたことも大きいかな」

だが、本作のストーリーを語るにあたってもっとも重要だったのは「一人の少年についての物語であることと、彼の孤立している状態だ」と振り返る。

「映画というのは、見ているその人の想像によって、なにかを満たしているものなんだ。これは原作のテーマ同様、私の人生も同じで私は映画によって癒しを得たんだ。私は小さい頃とても病弱で、外で遊ぶことができなかったから、父親がよく映画館に連れて行ってくれたんだ。父と一緒に映画を見ることが、結果的に私と父との絆を作ったのだと思う。この思い出が、ヒューゴと父親の関係に影響を与えているのかもしれないね」

(C)Paramount Pictures 2011
(C)Paramount Pictures 2011

4年前にブライアン・セルズニックによる原作を読んでいたというスコセッシは、監督の依頼を受けると、イラストが大半を占める原作の魅力を生かすためにキャリア初となる3D映画として製作することを決意。撮影監督のロバート・リチャードソンとともに3D撮影とその技法について一から勉強し直した。

「私は子どもの頃から3Dに魅了されてきたから、いつかは必ず作ろうと思っていたんだ。3Dに必要な『音』『色彩』『奥行き』というものは我々の日常生活の中で元々あるものなので、それを物語を伝える映像表現のなかで使うのは極めて自然なこと。実際、舞台芸術では奥行きを上手に使っているからね。現在、3D映画については様々なことが言われているが映画の歴史を見てみると、そこにはいつも新技術を使う上での葛藤があった。例えば、私が監督した『タクシードライバー』の撮影の時は、スタジオが乗り気ではなく低予算だったため、当時出たばかりの白黒のビデオテープを使って撮影しようとプロデューサーに提案したんだ。だが、クオリティが低く、結局はフィルムで撮ることになった。つまり、映画製作にはいつもこういった技術の問題がつきまとうんだよ」

1920年代にサイレントからトーキーへ、1950年代は白黒からカラーへ、2000年代に入るとフィルムからデジタルへ、何度かの大きな変革を経て現在は2Dから3Dへの移行が進められているメディアとしての映画。映画作品保存を目的とした非営利組織「映画財団(The Film Foundation)」を1990年に創立するなど、フィルムでの映画製作を推進してきたスコセッシ自身としては、今回のデジタル撮影にはかなり抵抗があったのではないだろうか?

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「100年以上にもわたって映画はセルロイドでできていた。だが、その時代は終わり、デジタルの時代になった。ぱっと聞いた感じでは何も問題はなさそうだが、一番の問題はネガが残らないことなんだ。セルロイドで保存すれば60年から100年はまずまずの状態で保存できるが、デジタルだと5~6年で消えてしまう。今のところ、フィルムに焼き付けることでしか、映画は保存出来ないので、しばらくはこれを続けるよりほかないだろうね。ただ、これは映画財団の創設者としての職務で、映画監督としては新技術についていかなくてはならない。だから今回はデジタル撮影に踏み切ったんだ」

なにもかもが初めてづくしの中、自らのイメージを刷新する「誰も見たことのない、まったく新しいスコセッシ映画」を完成させた巨匠だが、物語の舞台であるパリでの上映の際には、思わぬことを言われたそうだ。

「プレミア上映後のパーティで談笑していると、フランスの若い監督がやってきて、こう言ったんだ。『オレはあんたが憎い! フランス人の自分こそがこの映画を作るべきだったのに、なんであんたは先に作ってしまったんだ!』。私は笑うしかなかったね(笑)」

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