アンノウン : 映画評論・批評
2011年5月10日更新
2011年5月7日より新宿ピカデリーほかにてロードショー
これぞリーアム・ニーソンが放つ“驚愕の身元”シリーズ第2弾だ!
異国の地、孤立無援、巨大な陰謀、どんでん返し……。これらのキーワードに鑑賞欲をそそられるスリラー好きの読者に、ぜひお薦めしたい快作である。古都ベルリンで不測のトラブルに見舞われ、アイデンティティーを失ってしまったアメリカ人学者の苦闘。ここでいうアイデンティティーとは、この手のジャンルにありがちな“記憶”ではなく、辞書に載っている意味そのままに“身元”のことをさす。
自分の名前も職業も、ベルリンに来た理由もすべて覚えているのに、その事実を証明する術(すべ)がない。同伴してきた愛妻には「あなた、誰?」と告げられたうえに、主人公の名前を語る別人が現れ、揚げ句の果てには殺し屋が迫ってくる。こうした不条理な異常事態の勃発が手際よく描かれる導入部からして、往年のヒッチコック作品や「コンドル」「フランティック」などを彷彿(ほうふつ)させる上質なスリラーのエッセンスが濃厚に匂い立つ。
そして主演俳優がリーアム・ニーソンだということも忘れちゃいけない。彼が50代半ばにしてアクションに開眼した「96時間」は、まさに意外な“身元”を隠し持つ中年男の話であり、かなり唐突な設定を力ずくで見せきることによって問答無用の映画的快感を喚起していた。その点「アンノウン」は、終盤に明かされる衝撃の真実がより論理的なミステリー的興趣と結びついており、主人公の“身元”自体が巧妙なトリックになっている。「96時間」に続くニーソンの“驚愕の身元”シリーズ第2弾としても大いに楽しめるはずだ。
(高橋諭治)