劇場公開日 2011年5月27日

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「サスペンスを装う、設定の凝ったSFラブ・ストーリー」アジャストメント いおりさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0サスペンスを装う、設定の凝ったSFラブ・ストーリー

2011年5月30日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

笑える

楽しい

幸せ

人の運命は予定が決まっていて
逸脱しないように調整局が介入しているという
このユニークな設定に翻弄される男女を描く

魅力的設定も、若干の粗あり
几帳面に観ずともツッコミどころは少なくない
しかし、そんなところは軽くスルーできる味わいがある

引き裂かれる運命に、苦しむもひたむきに抗う
そんな彼らの悲哀に同情させられ
目まぐるしい展開は飽きさせず、最後まで目が離せない
ロマンチックに例えれば“近未来的ロミオとジュリエット”
SF好きなオレには、中々の快作だった

上院選立候補も敗色濃厚なデイヴィット
そんな窮地で 「偶然」 出会ったエリースと恋に落ちる
数年後、二人が再会すると謎の集団がその恋路の邪魔をする
目的も正体もわからない、運命を揺るがす集団
抵抗し意思を貫こうとする二人の運命は? というお話

原題: The Adjustment Bureau = 調整局 がキーになるのだが
この設定を、すんなり受け入れないと始まらない

「メン・イン・ブラック」 のような黒スーツに帽子をかぶる
そんな神出鬼没な調整員が、そこらじゅうに配備され
運命の書を持って、人間をモニターして操作をする
その特殊能力の一つが、既存のドアを別の空間へと繋げるもの
“どこでも”というよりは“どこかへ”行ける“どこかへドア”
終盤にポイントとなるこの能力は、視覚的にも面白い

彼らはその能力や身なりに比べ、意外に作業が雑で抜けている
そのため、いらん問題が起こり手間が増える
それがまた、皮肉にも話を面白くさせるから笑わせる
このあまりの雑さに、ツッコミを堪えるのがツラすぎだ

部下の手におえなくなると上司が登場し
仕事の意義に疑問抱いたり、勝手なことをしたりする調整員
現実社会でも、普通に転がっていそうな組織問題
そんな人間臭さが、こんな特殊能力者の組織でも起こっている
妙な親近感を感じる設定に、いい意味で苦笑いした

その障害に立ち向かう、デイヴィットとエリース
二人が愛を育てていく様子は、刹那的だが理想的
弱ったデイヴィットが元気付けられる出会いや
偶然再会したバスでいちゃつく場面
ほっこりさせられることこの上なしの甘酸っぱさだ

予期せぬ偶然、弱さを受けとめる献身、進展を拒む障害
これら揃えば、否が応にも恋に落ちて当然
ひたむきな彼らに感情移入をして応援させられる

ボーンシリーズを始め、悩める役が似合うマット・デイモン
相変わらず、いつでも眉間にシワ寄せ悩んだような顔つきだ
本作でも走るし、逃げるし、悩むし
困っているデイヴィットがうまくハマってくれる

また、エミリー・ブラント演じるエリースのサッパリ具合もいい
「プラダを着た悪魔」 の秘書や 「ガリバー」 などの王女役よりも
彼女のアクティブさが活かされ好印象
先日見た 「アンノウン」 のダイアン・クルーガーといい
強い意志を持ってチャキチャキいいたいことを言う女性、かなりツボだ

惜しいのはデイヴィットの設定の深みと言うか
重みがちょっと少ないこと
設定は大胆でも、結局パーソナルな問題になってしまい
壮大さが感じられず、チマチマしたのは残念

また、シャマラン監督風にモヤッとした部分があるのも
気になる人がいるだろう
オレはそれでも十分楽しめたし、問題ではないのだが

運命のせいと誤魔化さず
真っ直ぐ意志を貫く重要さがテーマだろう
だが、そんな主義主張にこだわると堅苦しくてツマラない

ちょっと複雑な設定下での恋愛映画
そう見た方が、エンタメとして楽しめる
テイストとしてはレイチェル・マクアダムスの
「きみがぼくを見つけた日」にも通じるものがある
たまには、こんな変化球である恋愛映画も悪くない

いおり