「戦乱に生きる人々のオムニバス」戦火の馬 キューブさんの映画レビュー(感想・評価)
戦乱に生きる人々のオムニバス
実はスピルバーグは幾度となく第2次世界大戦を描いてきたが、一度も第一次世界大戦を題材にしたことはなくこの映画が初めてとなる。しかし心配は無用だろう。やはりスピルバーグには見せる力がある。
まず特筆すべきなのは美しい映像群だろう。冒頭から息を呑むような草原が広がり、生々しい戦地のシーンでさえ歪んだ美しさを放つ。「溜息が漏れるような」とはこういうものに使う言葉だ。
しかし登場人物らの台詞は全体的にクサイ物が多い。元々が児童小説で、映画よりも先に戯曲にもなってるからある程度大仰しいのは許すべきかもしれない。だがスピルバーグはフィクションを描く天才でありながら、そこにリアリティを持ち込むことも出来たはずだ。だから肝心なところで今ひとつ感動できない。
欠点はあるものの、全体としてはとても良くできた映画だ。緩急が上手くつけられているので、2時間半もの上映時間の間、ジョーイの渡り歩く様を見ていて一度も飽きることはなかった。脚本は王道中の王道とも言えるが、すがすがしいほどストレートだから逆に楽しめる。そして先ほども上げた映像を筆頭に印象的なシーンが多いのもこの映画の優れたところだろう。
イギリス軍の元へ帰ろうと銃弾が飛び交う戦地を駆けるジョーイの姿は胸を打つ。この場面に「戦火の馬」のメッセージが込められていると言っても過言ではない。やはりスピルバーグは侮れない。
(2012年4月3日鑑賞)
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