劇場版ポケットモンスター ベストウイッシュ ビクティニと黒き英雄 ゼクロム : インタビュー
“映画俳優”高橋英樹、36年ぶり銀幕復帰で新境地開拓
自己紹介のときは今も名乗る前に「映画俳優の」とつけるという。そんな高橋英樹が「昭和枯れすすき」以来、実に36年ぶりのスクリーン復帰を果たす。デビューから半世紀を経た大俳優のハートを突き動かしたのは、なんとポケモン。「劇場版ポケットモンスター」の最新作「ベストウィッシュ」第1弾としてシリーズ初の2作同日公開となる「ビクティニと黒き英雄 ゼクロム」「ビクティニと白き英雄 レシラム」で、伝説のポケモン・ゼクロムの声を担当した。「常に未知の領域に飛び込んできたいという役者の生理」でアニメの声優に初挑戦し、節目の年に新境地を開く。(取材・文:鈴木元、写真:堀弥生)
筆者も含め40代から50代にとっては、やはり「桃太郎侍」が印象深い。その少し下の世代は「三匹が斬る」か。シニア層以上になれば、「男の紋章」シリーズをはじめとする日活の仁侠映画やNHK大河ドラマでの織田信長といったところだろう。いずれにしても高橋のイメージは時代劇であり、どうしてもポケモンとは結びつかない。
「そうでしょうねえ。僕もオファーを受けたときは、ポケモンって何だ? というところから始まりましたから。僕らの世代には訳の分からない世界で、説明を受けても意味がよく分からない。でも、役者というのは面白いもので、未知の領域に飛び込んでいきたいというものを常に持っている。名指しでオファーが来たということは、何かしら僕に期待しているのだろう。だったら挑戦してみようというね」
ポケモンとの“接点”は、毎年、総合司会を務めるテレビ東京の「独占生中継隅田川花火大会」に登場するピカチュウと、外国に行ったときに現地の子どもたちがピカチュウのぬいぐるみなどを持っている光景くらい。それでも台本を読み、過去の作品を見ることでポケモンがいかに多くの子どもたちの心をとらえているか、その魅力に気づいていく。
「根底に流れるメッセージは、非常に教育的な感じがしますね。親子の関係や正義というものに対する考え方、常に理想を持っているか、何のために生きていくかなど、人間が本来持つべき原点みたいなものがちりばめられている。ドラマでこれだけやると照れくさくてしようがないけれど、アニメの世界では平気で、素晴らしい影響力を子どもたちに与えていくと思いますね」
そう、まさに高橋が声を担当したゼクロムは、知恵と力を兼ね備えた伝説のポケモンで、長い眠りから覚め「おまえの理想は何だ?」と主人公のサトシたちの生き方を問う。そんな威厳、カリスマ性がキャスティングの一因かもしれない。
「どうなんでしょうねえ。な~んとなく声が丈夫で強そうだというところからきたのかなとも思うし、セリフの要素が時代劇っぽいから役に合っているとお考えになったのかもしれない。台本を読んで意味が分からず頭が痛くなってきたけれど、ゼクロムが背負っているものをどう表現するかを考えれば、実に簡単なことだと思った。(ゼクロムは)口が動くわけではないので、心に思っているメッセージを伝達する。普通より強くメッセージ性を表現したほうがいいかな、と」
しかし、ゼクロムの造形に関しては「間違いなく僕が今までやってきた役ではない。ハハハハハハッ。新境地開拓かと思いましたよ」と冗談交じりに振り返る。加えて、台本には戦闘シーンで「フォーッ!」「ファーッ!」といった鳴き声もかなりある。だがらといって、一切手を抜くことはない。
「絶叫するようなセリフが山ほど書いてあったので、これを言っていたら大変だから翌日の仕事を断ったんです。そうして収録に入ったら、フォーとかファーは全部効果音でセリフだけだと…。スタジオで5時間半ほど予定をとっていましたが、4時間半はムダな時間を過ごしました(笑)。まあ、非常に楽しく集中してできましたよ」
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