アンダルシア 女神の報復 : インタビュー
織田裕二、「可能性の塊」黒田康作にかける思い
俳優にとって1つのキャラクターを演じ続けることは、名誉であると同時にイメージが固定されるハンデも背負う。「踊る大捜査線」シリーズで青島俊作を足掛け14年にわたって演じその功罪を熟知する織田裕二が、「アンダルシア 女神の報復」で再び外交官・黒田康作役に挑んだ。しかも、テレビの連続ドラマ「外交官 黒田康作」と映画を続けて撮影し、ロケ地も米国、欧州にまたがる壮大なプロジェクト。沈着冷静、正確無比といったスマートな部分には磨きをかけつつ、より人間味も増した黒田は織田にとって「可能性の塊」と称するほどの大きな存在となっている。(取材・文:鈴木元、写真:堀弥生)
黒田康作は2009年、フジテレビ開局50周年記念作「アマルフィ 女神の報酬」で誕生。外交官としての任務だけではなく、対邦人テロ防止、要人警護などを担う邦人テロ対策室のメンバーという“裏の顔”を持つ。外交官という職務の性質上、舞台はワールドワイドとなり、起こる事件やエピソードの構想も果てしなく広がる。織田にも、1本で終わらせるのは惜しいとの思いがあったようだ。
「『アマルフィ』自体が素晴らしい、夢のような企画だったんです。(天海祐希、佐藤浩市ら)ドリームチームのキャストを組んで、しかも全編ヨーロッパで撮るなんて、まさか実現できるとは思わなかった。それが完成してすごいなと、まだ夢の中にいるような感じだったころ、監督と飲んだときに、ほっとするシーンがもう少しあったり、アクションをもっと派手にとか、もっとラブの部分を押しても面白いんじゃないかという、いろいろな欲が出てきちゃったんです。その時点で僕にも、製作者サイドにもあったんでしょうね。続けてやろうというのが」
そして、連続ドラマとともに待望の「アンダルシア」の製作が決まったときは、「もう、待ってました」の心境だったという。スペイン北部にある小国・アンドラで日本人投資家の遺体が発見されたのを発端に、黒田が遺体の第一発見者となる銀行員・結花(黒木メイサ)、インターポールの捜査官・神足(伊藤英明)とともに、事件の裏に潜む謎に迫るサスペンス。ロケ地も仏・パリ、アンドラ、スペインと3カ国にわたった。
「外交官はどんな切り口でもいけるし、黒田は可能性がどこまでも広がる男だった。どんな話がくるんだろうというのがまず楽しみで、そうしたら『アマルフィ』を何歩も進ませた形が『アンダルシア』だった。アクションもすごいし、どっちなんだと思わせるラブの駆け引きもある。そして3人(黒田、結花、神足)がそれぞれに抱えているものやバックボーンなどの人間ドラマとその変化の仕方、その他の出演者もそれぞれに魅力的だった。僕は内容を知っているのに、試写で声を上げて驚いちゃったり、あらためて台本の素晴らしさを感じました」
黒田は感情を表に出さず、笑顔もほとんど見せないクールさをまとう。だが、福山雅治演じるジャーナリスト・佐伯とのやり取りで、女性に弱いのでは? と思わせる一面は「アマルフィ」から継承されている。
「氷のような鉄の男かっていわれるとそうではなくて、女に弱いというか女好きというのが佐伯との共通点。そういうのって、大概ふられますよね。ものすごく恋多き男と狙いを定めていく男とタイプは全然違うけれど、結果は一緒みたいな。けっこう悲しい人生なんですよ(笑)。それが、『男はつらいよ』の寅さんじゃないけれど、完ぺきなやつなんかいない、あれだけ格好良くてもダメなんだと、男からすると妙に安心させられるところですね」
さらに「アンダルシア」では、ある“遊び”を加えることで、黒田の人間味がより際立つ効果を生んだ。全編を通して見ると、黒田はコーヒーを飲むチャンスをことごとく逃してしまうことに気づく。
「あれは、(西谷弘)監督がつくってくれたんですよ。僕がなんか欲しいって言っていたら考えてくれて、台本にはなかったけれど『コーヒーを飲めないってどう?』って。すぐに面白いと思いました。それを強く押しているわけではないけれど、他にも知らずにスルーしてしまうともったいないようなことを、いろいろなところで細かくやっています」
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