「家族愛の幸福度の基準を客に問い、戸惑わせるのが今作の価値やと思う」東京家族 全竜さんの映画レビュー(感想・評価)
家族愛の幸福度の基準を客に問い、戸惑わせるのが今作の価値やと思う
モチーフは云わずもがな小津安二郎がこしらえた古典派邦画の頂点『東京物語』
家族愛の微笑ましさと残酷さを入り交えた哀愁を踏襲しつつ、山田洋次が生涯掲げ続けてきた現代の家族の在り方を問うカラーが浸透しており、2時間越えでも最後まで感情移入してしまった。
お互いが想っているのに、どうしても遠慮し合い擦れ違うぎこちなさが、クラシックに展開する人情噺の味わいを引き締めていく。
立川談志のDNAを純粋に継承する一方で、独自の世界を確立する立川志らくの落語に通ずる。
生の独演会で効いた『らくだ』の雨宿りの件を思い出した。
解らん輩には、ダシと酢の効いたシメサバを嗜むような満足感に近いと申しておく。
両親が最も心配していた末っ子の妻夫木聡のだらしなさと愛嬌を兼備したキャラクターは、『男はつらいよ』の満男(吉岡秀隆)を彷彿とさせていて、山田洋次ファンの性分をくすぐらせる点もニクい。
ただ、舞台美術のスタッフってどれぐらいの収入・環境なのかピンと来ないので、苦悩を共感しにくかった。
れっきとした職人なんやから、心配し過ぎやろと両親に対し、ついつい思ってしまうのは、私も負けず劣らずだらしない息子やからだろう。
不器用ながらも最後に親孝行できた妻夫木が素直に羨ましい。
母親が妻夫木の彼女・蒼井優を紹介された際、初対面にもかかわらず、
「感じの良い人ね」とアッサリ肯定し過ぎる場面に当初、違和感を覚えた。
しかし、「良い人ね」ではなく
「感じの良い人ね」って声掛けするニュアンスが、今作のミソなのではなかろうか
我が家に着いてから、ふと想う春の入り口である。
では最後に短歌を一首
『旅の果て 居場所尋ねし 老いた雲 一対の輪の中 ぎこちない空』
by全竜