「『東京家族』 優しいひかりに満たされました!!」東京家族 石川八十一(yasoitu)さんの映画レビュー(感想・評価)
『東京家族』 優しいひかりに満たされました!!
“「事実」はそのままの形では単なる日常経験の範囲を出ない一時的な現象であり、普遍性もなく、従つて形而下的な経験たるにすぎないものだが、「真実」は普遍的であり、現実の圏内を越えた形而上の真理の世界に属するものである。簡単に云えば「事実」は経験するものであり、「真実」は直観するものだとも云えよう。(中略)従つてその印象性においては「事実」の方が強く、その浸透性においては「真実」の方が強いと云えるかも知れない。” 『シナリオ構造論』 野田高梧
映画館へ行くと、本編が始まる前に、いろいろな映画の予告編や、携帯電話の電源を切るようになどと注意する映像が流れる。これらの映像のあとの『東京家族』の最初の風景、東京郊外の住宅地の坂道が、なんとやわらかく優しいことか!この場所は確かに、2012年5月の「東京」であるけれど、「虚構の真実」に包まれ、満たされる思いがするのは、この映画がfilmで撮られたことに、はっきり関係するのだろう。
『東京家族』は、小津安二郎監督に捧げられた映画だが、ここでひとつ想起されるのは、2003年に「小津安二郎生誕100年記念」として制作された、侯孝賢監督の『珈琲時光』である。『珈琲時光』は、台湾の侯監督が、小津監督を敬愛する幾人もの日本の監督の作品を引用する事によって、間接的に「小津安二郎」を照射するという構造をもった作品だったが、その日本人監督たちの筆頭にくるのが、山田洋次監督である。
今回、山田監督は、あの時の侯監督の映画に呼応して、更に、真正面から小津安二郎監督に向かい合ったのが、この『東京家族』だと、私は思っている。
“兄妹”の配役で、驚いたのは、中嶋朋子が杉村春子だったことだ(笑)。
そして、現代の「原節子」の山田監督の答えが、蒼井優。おふたりとも、ほんとうに、素敵だった!
横尾忠則氏の原色が輝かしい鳥と男のポスターを、いつか私も部屋に貼っていた事を思い出したように、山田監督の映画には、細部にたくさんの想いや物語が織り込まれているので、私も今回、そのいくつかに気付いたし、たくさんの他の細部には、気付けなかった。なぜなら、涙でスクリーンが見えない場面も多かったから。
それは、もういちどこの映画を観に行ってから、別の場所に書くとして、最後に、『東京家族』に関わったすべてのみなさま、すばらしい映画を、ほんとうにありがとう!!