「東京砂漠。」東京家族 ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
東京砂漠。
山田洋次が、名匠・小津安二郎の「東京物語」をモチーフに、
現代の東京に生きるある家族の姿を描いた感動ドラマ…という
ふれ込みなのだが、モチーフ・オマージュというより、もう
ほとんどが東京物語を踏襲リメイクしているかのような作品。
舞台設定や背景は現代としても、その台詞回しも行間もカメラ
の配置までも揃えているのは凄いと思った。が、逆にそれが
おかしな平成を見せているような感覚にも繋がり、今時こんな
喋り方をする家族はいないぞ(爆)という、小津映画を念頭に
置かないと、かなり時代錯誤的な感覚に陥ってしまう気がする。
それだけ山田監督は「東京物語」を大切に思っているのだろう。
ただ絶対的に、小津映画と山田映画は違う。
その違いを楽しめるか、残念に思うかで、評価の変わる作品。
若い映画ファンにも(人気がある)小津作品は知られているので
原版と比べるとその類似性がハッキリと分かると思う。
ただ、当時の戦後間もない日本と、大震災後間もない日本との
対比は本作では分かり辛い^^;
設定を変え、戦死した次男をフリーター(って訳じゃないけど)
として登場させ、その恋人を未亡人の原節子に見立てた。
言いたいところは、遠くの親戚より近くの他人。じゃないけど、
せっかく逢いにきた子供達は皆それぞれの生活で多忙な現代、
両親の面倒もぞんざいな中、唯一親切にしてくれたのが他人
(っていういい方もおかしいけど)の嫁や恋人だった。という、
当時では画期的な(核家族の)描かれ方だったんだろうと思う。
心の拠り所。とはどこを指すのか。
両親に親切にしてくれた未亡人である嫁が、再婚を勧められる
中で、やっと本音を吐露する後半シーンが秀逸な「東京物語」。
今作では、まさかと思う息子の恋人の出現に戸惑いながらも、
大喜びして亡くなっていく母と、最後にやっと受け容れる父親。
子供達の成長と躍進は嬉しいものの、年老いて侘しさがつのる
老親世代にとって、相も変わらぬ人情というか、ささやかな一時が、
どれだけ冥土の土産(まだ早いですか)になるものかを示している。
自分が原版(もちろんビデオで)を観た頃はまだ若くて、
どうしてこの子供達は両親に冷たいんだろうと不思議に思った。
熱海(今回は横浜)の海辺で
「お父さん、帰りましょうか」という母親の一言がずっと忘れられず、
何か哀れで堪らなかったのを覚えている(その後のあの扱いもねぇ)
だけど、自分がこの長男やら長女やらの歳になってみると、
中年世代の悩みや気苦労など大変さが段々身に沁みてくるもの。
家族それぞれが、それぞれの悩みを抱えている。
年代によってそれが多岐にわたることが、物語からもよく分かる。
でもやはり。
行き着くところが家族の愛情であるのは、決して疎かにはできない。
やがて自分が親の立場になった時、その頃の双方の気持ちがグッと
迫ってくるんだろうな、と思う。
いつか息子の嫁(くるのか?)に、いろいろ言われたりする近未来を
想像しただけで、すでに背筋が凍りつきそうだが。。。
ともあれ、独りになるのは寂しいものだろうけど(仕方ない)、
自分の子供達が無事に成長し元気でいてくれるだけでも幸せだと、
戦争や震災で家族を失った方々には申し訳ないくらいだと思う。
山田映画の温かさはラストの光景に感じられる。
あのお父さんは、決して不幸ではないぞ。むしろ幸せな老後である。
(頑固で扱い辛い父親^^;私的に通じるこのテーマには考えさせられる)