ダンシング・チャップリン : 映画評論・批評
2011年3月29日更新
2011年4月16日より銀座テアトルシネマほかにてロードショー
映画監督と振付師による、穏やかだが熾烈な攻防
かつて周防正行監督は伊丹十三監督の「マルサの女」シリーズのメイキングでドキュメンタリストとしての傑出した才能を広く知らしめた。フランスの巨匠振付師ローラン・プティが名ダンサー、ルイジ・ボリーニのために創作した「ダンシング・チャップリン」を映画化した本作では、久々に第1幕<アプローチ>で、その手腕が遺憾なく発揮される。
91年初演の舞台の忠実な再現を望むプティと、たんなる舞台中継ではなく、あくまで<映画>に固執する周防監督の一見、穏やかだが熾烈な攻防が、まるでバックステージもの映画の小波乱のエピソードのように臨場感たっぷりに描かれるのだ。還暦を迎えても、驚くほどに躍動する肉体を披歴するボリーニの陽気な魅力をすくいとりながら、引退した愛妻・草刈民代のバレリーナ人生へオマージュという、もうひとつの隠れテーマが次第に浮上してくる。
休憩をはさんでの第2幕<バレエ>は、その映画的な趣向がいかに実現されたかを明かす証言でもある。「Shall we ダンス?」の冒頭でジャン・コクトーが引用されたように、さまざまなチャップリンをめぐる箴言(しんげん)・警句がナレーションで列挙され、一気にプティの魅惑的な舞台空間が現出する。ボリーニの、そして草刈民代の至芸を味わうならキャメラをフィックスで据えたままにすればよい。だが、周防監督はコマ落とし、ストップモーション、クローズアップ、モノクロからカラーへの溶暗・溶明とあらゆる技法をさりげなく駆使し、閉じた小宇宙である舞台的な陶酔から、視覚的な愉悦・解放感を引き出そうとする。プティが猛反発した、緑したたる広大な公園をバックに警官が踊るシーンとラストの路上の光景には、ささやかな映画の勝利が垣間見えるようだ。
(高崎俊夫)