「怖くてシンプルでちょっとだけロスト・イノセントなリメイク版」モールス 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
怖くてシンプルでちょっとだけロスト・イノセントなリメイク版
オリジナル版である映画『ぼくのエリ 200歳の少女』
との比較中心のレビューなので、いつも以上に
つまらんレビューになってますが、悪しからず。
オリジナル版の魅力や物語の解釈についてはですね、
ミアさんのレビューに僕は120%くらい共感しているので、
そちらを読んでいただければと。素敵なレビューですよ。
さて今回のリメイク版。基本的にはオリジナルにかなり忠実な内容だが、
直接的な表現が好まれるアメリカ映画らしいアレンジが加えられている。
まずショック描写がやや強めに。
吸血鬼の恐ろしげな姿、その被害者の傷口の生々しさ。
最後のプールでの惨劇も、プール外の音はくぐもって
殆ど聴こえなかったオリジナルに対し、こちらは悲鳴がよく響いて聴こえる。
全編を覆うおどろおどろしい音楽も含め、恐怖演出が強まった印象だ。
物語に関しても、
吸血鬼に復讐を目論む隣人のエピソード等が消え、
刑事が少女を追い詰めてゆくシンプルな展開に。
また、主人公の父親の登場シーンも丸々削られた。
母親の顔も、スクリーン上に一度もはっきりと映らない。
これらは主役2人により焦点を当てる為、そして主人公の少年の孤立を強調する為の変更か。
だが、静謐なオリジナルの方が少年の孤独感は伝わっていたように思える。
もうひとつ、『少年は少女の新たな“世話係”として選ばれたのでは』という
残酷で哀しい解釈が、より観客に伝わり易い作りになっている点にも注目。
残念ながら物語の深みは多少無くなってしまったかなあ。
リメイク版にはあとひとつ、大きな変化点がある。
オリジナルでは、少女が実は“少女ではない”事を示すシーンがあったが、
今回そのシーンがバッサリ消えた。その為、
「女の子でなくても好きでいてくれる?」という
少女のセリフの意味合いが異なる。
また主人公の少年が異性に対して抱く関心も、より生々しい印象。
で、何が言いたいか?
主人公2人とも男女の区別が曖昧だったオリジナルには
友情とも愛情ともつかない、氷細工のように美しく脆く繊細な感情が流れていた。
だがリメイク版の主人公2人の絆は、性別を越えたイノセントな絆ではなく、
“男女”の絆にややシフトしたように思えるのだ。
つまり、ちょっとだけロスト・イノセント。
どちらが好みかは人次第。
僕は胸を締め付ける切なさがあるオリジナルが好きだが、
このリメイク版も秀逸な出来です。
<2011/8/7鑑賞>