「崩れゆく魂はおぞましくも美しい」ブラック・スワン 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
崩れゆく魂はおぞましくも美しい
公開2週間足らずでレビュー総数40件近くって凄ッ。
いやー、こわいこわい、こわいこわい映画でしたね(淀川長治さん風に)。
小説・絵画等々、芸術と呼ばれるものを求める人間には
己をトコトン追い詰める破滅的な方も多いようだ。
本作の主人公ニナも然り。
幼い頃からバレエしか与えられなかった彼女は、
バレエダンサーとして成功するしか自分を
この世界に存在させる手段は無いと信じ込んでいる。
ニナが崩壊するに至った理由は様々だし、その引き金となったのは
奔放なリリーの出現だろうが、問題の根幹はやはり母親だと思う。
娘に己の夢を『代理』させる母親の、娘への執着たるや凄まじい。
娘の顔を描き殴り、小鳥のように飼い慣らし、
優しい笑みの直後に憎しみの言葉を口にする。
僕にはニナが『自分が生まれた事で母の夢を奪ってしまった』
という変な罪悪感(プレッシャー)を感じているように見えた。
それとニナが性的衝動を抑圧するのも、この母親自身が男性に対して
不信感を抱いてるからじゃないんかね。はっきり描かれてる訳じゃないけど。
あの母親にもう少し焦点を合わせたら更にオソロシイ映画になったのでは、
と勝手なことを言ってみる。
話題を変えます。
映画内で繰り返される裂傷のイメージ。
やけに耳を突く、皮や肉の裂ける音、服の擦れる音、骨の軋む音。
ひとつの肉体にふたつの相反する魂は入れない。
ニナの肉体が裂け、軋み、変形する様は彼女の『変身』とも取れるが、
入り切らなくなった魂が肉体を破り出ようとしているようにも見える。
——卵殻を破り生まれ出るイメージ。
思うに、何かが破裂・炸裂する様っていうのは美しいんですよ。
原子核が分裂する時に膨大な光熱を放つように、壊れるってことは同時に、
それが有している何らかのエネルギーを外にぶちまけるって事なのでは。
そして我々はそのエネルギーを受けて凄いとか美しいとか不快だとか
おぞましいとか自分なりの感情に変換してるんじゃないかしら。
圧力が強ければ強いほど、破裂の際のエネルギーも凄まじい訳で、
クライマックスのニナはいわば、
ぎゅうぎゅうに圧縮された魂を燃料に炸裂する花火だった。
そして彼女は白鳥と同様、死により自由を得る。
あそこで死ななくとも、いずれはあの“姫君”と同じに朽ち果てたろう。
物語の開幕から、彼女にはあの結末しか用意されていなかったのかもしれない。
<2011/5/14鑑賞>