「今日の一句『白と黒 振り子の美学 銀を染め』」ブラック・スワン 全竜さんの映画レビュー(感想・評価)
今日の一句『白と黒 振り子の美学 銀を染め』
ダーレン・アロノフスキーは、前作、ミッキー・ローク主演『レスラー』同様、娯楽性とかけ離れた骨太ドラマに仕上げている。
主役に抜擢された喜びよりも、足を引っ張り合う競争にもがく負の要素にスポットに当て、華やかな舞台を裏側から露骨に描き出すスタイルは一貫しており、孤独感に蝕まれる主人公のダークサイドは、より闇を深めたと云えよう。
『大奥』や『ガラスの仮面』etc.が得意とする一連の陰湿極まりない女の闘いを彷彿とさせ、正直、苦手な世界観だった。
介護福祉士として働いている自分にとって、介護業界も女流社会である。
裏表の落差が激しい職場で女性の恐さを幾度となく目の当たりにした経験がフラッシュバックしたのも、今作の窒息度を濃くする一因となった。
特に、演技指導を建前に下心全開でダンサー達に接する舞台監督(ヴァンサン・カッセル)なんざ、《エグッ!エゴイストだらけの泥試合大会》の最たる人物で、言動の全てが憎たらしく、ナタリーの抱える頭痛が、観客一人一人に否応なく憑依してくる。
主人公が報われない息苦しい環境で最後まで追い詰める痛々しさ100%なのに、嫌悪感に徐々に面白さを見いだせたのは、圧倒的ナタリー・ポートマンの躍動感溢れる表現力に尽きると思う。
物語自体は、捻りを抑え、バレエ界の渦を豪速球で投げつけてくるため、巻き込まれる健気なナタリーの一挙手一投足に目が離せなくなる。
緊張と緩和、自由と拘束、禁欲と爆発、醜と美、理性と狂気、構築と崩壊、拒絶と誘惑、罵声と喝采、妬みと誇りetc.etc.…
対極に向かい、叫ぶ各々の性が、白と黒のスワンに凝縮されている。
彼女が舞台に没頭していく毎に、女優ナタリー・ポートマンそのものが蓄えてきた“陰と陽”の振れ幅を思い知り、客は問答無用で虜と化す。
狂気との衝突の果て、魑魅魍魎のショービジネスの駒である己を悟った彼女は、クライマックスで遂に舞台で運命を全うする。
エクスタシーの頂点に達した表情を目の当たりにした時、なぜかチャップリンの『ライムライト』のラストシーンが脳細胞を駆け巡った。
後味も切り口も両極端な作品にも関わらず、記憶蘇ってしまったのは、良くも悪くも舞台で命を捧げた人間の執念が銀幕に刻まれていたからなのかもしれない。
オスカーに輝いたのは当然やと思う。
では最後に短歌を一首。
『踊り娘を 掻き毟る夢 白と黒 傷に目覚めし 牙たちの渦』
by全竜
全竜さん
素晴らしい感想でした。共感しました。
二色で表す対極の表現とても良いですね。映画を見ながら気持ちが白・黒と入りこんでしましました。一番印象に残ったのは、踊りもそうなのですが女性の内面をよく描かれていることでした。駄目男を描く映画にも飽き、強気な女を描く映画にも飽きたこの頃でしたが、新鮮な気持ちになりました。