「最大のスキルは人と向き合うこと」英国王のスピーチ マスター@だんだんさんの映画レビュー(感想・評価)
最大のスキルは人と向き合うこと
人前で思うように話すことができない王室の三男が王位に就いてしまったという事実への着眼がいい。それがこの作品のすべてと言っても過言ではない。
吃音症で苦しむ男が一国の王として独り立ちする物語自体はいたって単純で、それだけに出演者、とりわけジョージ6世ことアルバート、言語聴覚士ライオネル、それにアルバートの妻エリザベスを演じるコリン・ファース、ジェフリー・ラッシュ、ヘレナ・ボナム・カーターの演技力が試される。もしこれが、いっぱいいっぱいの演技だったら大失敗になる。
ところが、この3人、いっぱいいっぱいどころか余裕で役をこなす。自然な振る舞いと喋りで、本当にその場に居合わせた気分だ。
アルバート王子をほかの患者と差別せず本人の承諾も得ずにバーティーと呼び、ときには厳しくときにはユーモアを交えて接するライオネル。彼はアルバートの王としての資質も見抜く。また、夫の身を案じても取り乱さず、いつも温かく見守るエリザベス。この二人は文句なしだ。まさに、ふたりに後押しされる形でアルバートのコリン・ファースがその上に君臨する。
アレクサンドル・デスプラ担当の音楽もいい。オリジナル・スコアはもちろんだが、ラストでスピーチのバックに流れる“ベートーヴェン交響曲第7番第二楽章”が効果的だ。
ライオネルは特別な資格を持った言語聴覚士ではない。経験によって独自の療法を積み上げていった吃音矯正の専門家だ。
いっぽうアルバートも、生まれながらにして王家の一員ではあるが、それは血筋であって資格ではない。
では言語聴覚士や王位としての専門知識を学ぶことだけが、その道で成功するためのスキルになるのだろうか? この作品からは《最大のスキルは人と向き合うこと》だと汲み取れる。