英国王のスピーチ : インタビュー
幼少時から吃音に悩み、内向的だったヨーク公アルバート王子が、風変わりな言語セラピストや妻・家族に支えられながらコンプレックスを克服し、英国王ジョージ6世になるまでの実話を描いた人間ドラマ「英国王のスピーチ」が今週末ついに日本公開を迎える。本年度アカデミー賞で最多12部門のノミネートを果たした本作において、主人公ジョージ6世を熱演したコリン・ファースが、先頃開催された第61回ベルリン国際映画祭に来場。英国王ジョージ6世の役作り、そして期待が高まるオスカー受賞への思いを語ってくれた。(取材・文:森山京子)
コリン・ファース インタビュー
「自分のキャラクターに優しさと敬意をもって演じたつもりだ」
コリン・ファースの素顔は、スクリーンで見るイメージとあまり変わらない。イギリス紳士らしく丁寧できちんとしている。そのコリンが、突然「Bullshit(でたらめだ!)」などと乱暴な言葉を使ったのでびっくりしてしまった。最近、「僕は王室のファンではない」というコメントを書かれたことに腹を立てたのだ。
「とんでもないデマだ。そんなことを言ったことは一度もないよ、Bullshit!」とかなりのご立腹。「王室が好きだと言ったことはあるよ。チャールズ皇太子が好きだし、彼の環境問題への取り組みや社会活動は素晴らしいと思っている。君主制主義者をどう思うかと聞かれたから、政府のシステムなら民主主義が好きだと答えただけだ。自分たちのリーダーを自分たちが選ぶのは当然じゃないか」
コリンが王様を演じるのは学生の時以来。歴史物ならいざ知らず、今回は記憶に新しい先代の国王なので、似ていないと批判されることは覚悟していたと言う。
「ジェフリー・ラッシュと、彼が演じたローグのお孫さんから借りた日記を研究したよ。僕たちが目指したのはジョージ6世とローグの友情を出来る限り信憑性のあるものにするということ。Bromance(Brother Romance=セクシャル関係ではない男同士の堅い絆)って言葉があるけど、この2人はまさにそれだと思うよ。それと自分のキャラクターに優しさと敬意をもって演じたつもりだ。まだ両方の親族がいるわけだから、彼らを傷つけないようにしたかった」
普段は緊張で堅い表情をしているジョージ6世が、娘たちとのシーンでは優しいパパになっているのも、意図して演じた結果だ。
「僕は、彼と2人の娘の間には大きな愛情があったと信じている。エリザベスがケニア親善訪問に出かける時、重病だった彼は医者の反対を振り切って飛行場まで見送りに行っている。彼の写真は直立不動で堅苦しいものがほとんどだけど、娘と一緒の写真だけは微笑んでいる。暖かい関係だったと思うよ」
コリンや監督たちが王室やローグ家以上に気を遣ったのが吃音に悩む人に対してだ。
「彼らがどう受け止めるか心配だったけど、幸いなことにとてもいい反応があった。世の中で無視されてきた問題に注意を促してくれたとか、彼らの置かれている状況を理解しているとか。映画を見て救われたと言う人もいた。吃音は、これまで笑いの対象として描かれることが多かったからね。実は脚本のデビッド・サイドラーも吃音なんだ。だからこの問題を真っ向から描くのは凄く勇気が要ったと思う。素晴らしい仕事をしたよね」
その吃音の症状をマスターするにはかなりの時間がかかったと言う。
「ボイスコーチはいたけど、彼らがやってくれたのは1930年代の王族の喋り方を教えること。発音やリズムが今とは違うんだ。でも、吃音になるように教えるというのは誰にもできない。吃音を直すのがコーチの仕事で逆はないんだ。だから僕は昔の王室のリズムをマスターしてから、それをつっかえながら喋るように練習した。音楽やスポーツの練習と同じで筋肉が覚えるまでひたすら繰り返すのみだよ。でも、体が覚えたことを元の状態に戻すのは簡単じゃない。『英国王のスピーチ』を撮っている間に『シングルマン』のプロモーションがあって、時々吃音になって困ったこともあった。いまでも、この映画の話をしているとつい出てしまうんだ」
アカデミー賞の受賞スピーチは大丈夫でしょうねと聞くと、「そんなこと分からないよ。どんな結果が出るか、誰もまだ分からないんだから」と、軽く一蹴されてしまった。
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