「余命と感情。」わたしを離さないで ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
余命と感情。
原作は読まず(というか知らず^^;)観てみた。
とある映画情報番組で、「これは近過去SFですね。」と言っていた。
…巧いこと言う!!
そうなのだ。描かれている世界、これから為されることは他作でも
描かれているが、今作にはなんとも古めかしい70年代のテイストが
溢れ(もっと昔でも通じそうだけど^^;)その景色の美しさと彼らの
恋愛、命に対する価値観や真相が相まって、泣けてくるのである。
まぁ欲をいえば…観た時期が時期なだけに(震災後)正直辛かった。
映画に文句をつける気はないが…儚く散った命を前にして、それを
引き延ばすための存在が平然と作られている内容に、鬱積を覚える。
しかし本作はその面を強調せず、彼らの日常と規律、恋愛、行動に
焦点を絞り、普通の人間と何ら変わらない価値観を浮き彫りにする。
もちろん…そうでなければならないのだが、彼らがある噂を信じたり、
自身のルーツに興味を示したり、やがて恋愛したり…と、まるで普通
の価値観を持って育ってきたことに、教師達は興味を示し、私達は
より哀しみを増す結果となる。。
平然と職務をこなす校長やマダムに対し、新任の教師はその現実に
耐えきれず、彼らに真相を話して辞任させられる。ごく普通の見解を
改めて否定され、私達観客もかなりショックな展開となる。
しかし…。
この状況で生まれ育ち、外界のことを何も知らないで育った彼らが、
少しずつ真相に近づく過程は、確かに哀しいのだが、観応えがある。
絵画が上手と評判のトミーは、それが自身の愛と能力を示していると
雄弁に語るが、希望を打ち砕かれて大きく泣き叫ぶ。
それを冷静に見守るキャシーも、彼らに割って入ったルースも、皆
運命に逆らうことはできないままなのである。
これが近未来の?SFとなれば、すぐさま反乱!!となりそうだけど、
今作にはそれもない。運命は運命として。受け入れるのが当然の如く。
原題にもなっている「NEVER LET ME GO」
映画ではこのテープを聴きながら、キャシーが枕を抱くシーンが
印象的だが、原作ではもっと心に残るシーンになっているそうだ。
例えば自分の余命がどこかで判明し、もう長くはないと知った時に、
それまでの月日を楽しむか、医療技術に希望を託すか、運命をどう
受け入れるかは様々だと思うのだが、アンチ○○というのはイヤだな
と思うのが私の考え方。流れに逆行して老いや病を止めても、いつか
近いところで頻繁にお逢いすることになる…老いや寿命があるから
人間はいまを大切に生きようと思うのであって、機械ではないのだ。
(この施術が近過去に行われてなくて良かった。未来もやめようね。)