あぜ道のダンディ : 映画評論・批評
2011年6月7日更新
2011年6月18日よりテアトル新宿ほかにてロードショー
困難な時代を生きる男たちに対する切実で心温まる応援歌
「おい、そんなあたりまえの事、いまさら言うんじゃあねえよ。こんな時代におじさんやってんだぞ。後にも下がれねえ、前にも進めねえ50歳だ。だから大変なんて分ったこと言うんじゃあないよ」
妻に先立たれた宮田淳一(光石研)は、配送会社のドライバーとして働きながら2人の子どもを育ててきた。そんな淳一が親友の真田(田口トモロヲ)に居酒屋で吐露するセリフの一つ一つが秀逸で、思わずそうだそうだと頷いてしまった。淳一は浪人中の俊也(森岡龍)や高校3年生の桃子(吉永淳)との関係に悩むが、子どもの前ではつい見栄を張る健気さやいじらしさが共感を誘う。
石井裕也監督は「川の底からこんにちは」がそうだったように、ローカルな風景を切取るのが巧いし、人間ドラマの演出も1本ごとに上達している。弱冠28歳の監督が不器用な中年男の泣き笑いや屈折した心情を、ここまで描けるのかという驚きがある。
「あーあ、男が生きにくい時代だよ。オレには地位も金もねえから、せめてダンディでいたいんだよ。(中略)平凡であることを恥じたら終りだぞ。それはつまり生きていることを恥じるなということなんだよ」
淳一が連発する<男>という言葉は<人間>や<女>に置き換えてもいい。ダンディが内なる美の概念だとすれば、それは誰にとっても共通の願望だろう。自分を競走馬に見立てて頑張る主人公は、本作で32年ぶりの主演を果たした光石研と重なって見える。困難な時代を生きる男たちに対する切実で心温まる応援歌になっている。
(垣井道弘)