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授乳の合間に、携帯でのシネコンのタイムテーブルをチェックしていたところ、ふと疑問が。「あれ、なんで私は『うさぎドロップ』に引かれたんだっけ?」…しばし思案。もちろん、イクメンとかイケダンに興味があったわけでない。マツケンの大ファンというわけでもない。…「あ、監督だ!」
そうです。「うさぎドロップ」は、なんと、あのSABU監督の「蟹工船」に次ぐ新作だったのでした。これはやっぱり、はずせません。…ということで、アニヲタで大盛況のシネコンに久しぶりに足を運びました。(そういえば、同監督の「疾走」も、仙台では郊外のシネコンでしかやっておらず、一大決心して一時間近く自転車を走らせたなあ…なんてことも思い出されました。あまりシネコンが似合わない監督だと思っていましたが…。)
で、「うさぎドロップ」。ひょんなことから同居することになった、6歳の女の子・りんと独身青年・ダイキチ、二人を取り巻く人々の織り成すハートフルストーリーです。観た直後は、「漫画が原作だけあって、唯一の悪い役どころは漫画家に回してあるんだなあ…」等と安直に感じていましたが、改めて思い返してみると、最も印象深い=ひっかかるのは、意外にもその漫画家、育児放棄した女の子の実の母親・マサコさん、なのでした。
まっすぐにハッピーエンドを追い求めながらも、不穏さと疾走感が独特の味わいを生むSABU film。「DRIVE〈ドライブ〉」「幸福の鐘」の頃から、心優しい市井の人々のアンサンブルをあたたかく描くようになりつつも、依然ひんやりとした異質な人物や空気を紛れ込ませるところがうまいなあ、と感じます。登場する前から「感じの悪い」マサコさんは、実際もダイキチとの会話を避けるようにひっきりなし髪いじりをしたり、場違いなパフェをオーダーしたりします。が…、不器用ゆえに、やらなきゃいいことを敢えてわざわざやってしまう人、とも思え、どこか憎みきれなさがありました。
さらに納得したのは、地に足のついた仕事とのかかわり方。後半、りんの失踪という事件が起き、ダイキチたちは必死に探しまわります。けれども実際のところ、子どもがいなくなったからといって仕事を放り出し、同僚さえも職場放棄して捜索に協力する、ということがあるか?(可能か?)という思いはぬぐえません。一方、「今、修羅場なんで」と、マサコさんは手を止めることなく淡々と言います。たぶん、気持ちはダイキチでも、彼女の姿勢を取らざるを得ない人が多いでしょう。そんな彼女の内情を、ペンの動きだけで表現したラストが忘れがたい。あれは、マサコさんの心変わりではなく、マサコさんへの視線の変化、ではないかと思います。そんなマサコさんを演じたキタキマユさんも醸す佇まいも、つくづくピッタリ、でした。さすがです。
あったかストーリーにも、ほろ苦さは必須です。
〈蛇足〉
ところで、どなたか「うさぎドロップ」って、何故そういうタイトルなのでしょうか…?「うさぎ」は、りんが「うさぎさんみたいな、二つ分けの髪形にして!」とねだるシーンがありましたが、「ドロップ」は、?でした。強いて言えば、ダイキチが着ていたTシャツのプリントが、ドロップの模様だったような…(?_?)