のぼうの城 : インタビュー
そしてのぼう様の真骨頂が、単身で小船に乗って敵陣に乗り込み2万人を相手に見せる田楽踊り。振り付けや歌詞は自ら考え、監督と打ち合わせを重ねながら構築していった。
「あそこは2万対1。2万人を1人で乗せるにはどうしたらいいかといったら、まあ小難しいことより下ネタだろうと。いきなり変なヤツが出てきて、寝小便してお尻見せてというところから始まって、すきを見せれば恐らく興味を持ち始めるだろうから、そこから振り幅をつくりだんだん乗せていくということを考えました。(相手に)撃たせる狂騒感を大事にしたいなとも思いました。皆が楽しくなっていく中で、僕の目だけがマジになっていくのはすごく好きですね。ふざけた感じからちょっと怖い感じになっていく、合戦以外のシーンでの見どころでありたいなと思います」
実際に長親は相手の銃弾に倒れる。それは自分の命と引き換えに自陣の士気を高めようという戦略だが、これが見事に功を奏す。だが実は、撃たれて池(プール)に落ちるシーンが、萬斎にとってのラストカット。撮影は11月の京都という過酷な現場だった。
「お湯を張ってもらったりはしたんですけれど、もともとが冷たい水ですから、ちょっとお湯を足したくらいではね(苦笑)。撃ち落されてずぶ濡れになって終わった感じですけれど、楽しかったなあ。すごく思い切りやらせていただきました」
満足げな笑顔からは、充実した撮影だったことがうかがえる。映画は「陰陽師II」(2003)以来だが、「のぼうの城」はあらためてその魅力を感じるには十分だったようだ。
「舞台とは違って皆で作る大きな世界という感じ。テレビは何かしながら見ちゃうけれど、この作品はちゃんと劇場で見てもらいたいし全く飽きないと思う。家で見るにはもったいない気がしますね。本当に合戦、群像劇と畳み掛けて、全く違う感じのシーンがどんどん出てくるという意味でも、飽きずにご覧いただけると思います」
映画やドラマに出演することが、狂言に影響を与えることも多いという。特に「のぼうの城」では気品のある凛(りん)としたたたずまいを保ちつつも、今までのクールなイメージをいい意味で覆した印象が強い。その柔軟性が、長親を理想のリーダーへと導いた要因かもしれない。
「僕らは型にはめられた稽古をするので、それを守る、すきなく演じることを求められています。『のぼうの城』ではすきを見せる演技をすることも含めて、自分が習得した技術の素晴らしさを見せるのではなく、ある種人の心を導き出す、押すばかりではなくとっかかりを持たせることが、自分にもフィードバックできることですね。この映画ではリーダー像を語ることもできると思います。丹波にしろ和泉(山口)にしろ靭負(ゆきえ、成宮)にしろ、皆(戦の)エキスパートはいるけれど、大将になれるかというとそうではない。長親には武術の能力はないけれど、そこに皆が集まってひとつの輪ができるみたいな、皆を組ませる懐がある」
9年ぶりの映画出演となるが、萬斎自身は「のぼうの城」の企画が持ち上がった初期段階からキャスティングに名を連ねている。しかも、豪快な水攻めのシーンがあることから東日本大震災の被災地に配慮し、公開が1年延期された。それだけに、ようやく観客に届けられる日が迫り、感慨もひとしおだ。
「本当に長い道のりだったと思います。震災の記憶は消えないでしょうけれど、直後よりはひと息ついた現在、エンディングも含め(忍城のあった)行田の石田堤が残っていて、その上を人が歩いて日常を送っている意味でいうと、人間捨てたもんじゃないし何があっても人間は生きていく、生きているんだというエールになればと。公開されるのが本当にうれしいなあというのが率直な思いです」