「無駄な説明を省き、スピーディーなストーリー展開が痛快でいい」キス&キル 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
無駄な説明を省き、スピーディーなストーリー展開が痛快でいい
最近は、スパイ映画とラブコメという異色の組み合わせの作品が増えてきました。特に『ナイト&デイ』とは、コンセプトが似通っています。ただこちらはキャスト任せで、現実感がなく、素敵なおとぎ話になってしまっています。
それに比べて、本作は話を大きく拡げないことと、細かく伏線を繋いで現実感を上手く出しています。本来相容れない要素がくっついているので、バランスをとることが難しいのです。ジャッキーの『ダブルミッション』でもアクションは素晴らしいのですが、フィアンセに内緒のスパイ家業のところで、リアルティは出せませんでした。
その点本作は、無駄な説明を省き、スパイであるというカミングアウトも前半において、とにかくスピーディーなストーリー展開が痛快でいいのです。そして主人公のふたりがラブラブな時は、コミカルに。場面が変わって、ヒットマンに追われる時は、一転してアクションにこだわった迫力あるシーンに変わるというメリハリが利いたストーリーで、とても楽しく作品の世界に引き込まれました。
とにかく、アッと驚くラストのネタバレが面白いのです。次々とスパイ稼業から足抜けした主人公に刺客を送り込んでいたはずのボスまでもが殺されて、誰が黒幕なのかとその影を追い詰めていったとき、思わぬ灯台元暮らしに驚かされました。ただ注意深く見ていれば、冒頭からヒントとなる台詞が埋め込まれています。何食わぬ顔で、語られているので、気がつきにくいとは思います。それが解れば、やっぱりそうだったのかと納得されることでしょう。
冒頭、かなり『007』を意識したようなスタイリッシュな映像で、本作がスパイ映画なんだと言うことを強調します。ところが、ジェンが登場してからは、いかにリゾートでバッタリ出会ったイケメンのスペンサーを口説き落とすかにシフトして、のっけからラブコメ全開となります。スペンサー役のアシュトン・カッチャーがいきなりムキムキの身体を晒して、半裸で登場したら、ジェンでなくとも、劇場の女性陣全員がうっとりしてしまうことでしょう。それに、二人が出会う南仏のリゾート地ニースのロケーションが素晴らしいのです。カンヌにも近く、海に沿った起伏のある景観は、イタリアのアマルフィーにも似て、とてもロマンチックな場所でした。
『ナイト&デイ』だと出会ってから紆余曲折が長いのですが、本作ではこの時点で二人は結ばれてしまうのです。さらに自分は殺し屋だとスペンサーはカミングアウトまでしてしまいます。あいにくジェンは眠ってしまっていましたが。とにかく仕掛けが早いのです。
なんでこんな急な展開に相成ったかと申しますと、トドのつまりスペンサーがスパイ稼業に疑問を持ち始めていたのです。味方の脱落者の抹殺ばかりが多くなって、次第に人を殺すのが刹那く思い始めていたのでした。そんなときに魅力的なジェンと恋に落ちたのをきっかけに、この裏稼業から足を洗おうとしたのでした。
結婚して3年間は平穏な日々が過ぎた頃、前のボスから呼び出しを受けたスペンサーでしたが、もう二度と戻ることはないと断ってしまいます。足抜けに怒ったボスは、スペンサーの首に、2000万ドルもの大金懸賞をかけたものだから、さあ大変。次々にヒットマンが、スペンサーを襲うようになったのです。このヒットマンの設定が、本作ならではの身近さなんですね。親友から会社の同僚、はたまたご近所の方までも、当然豹変して襲ってくるものだから、まるでゾンビ映画のように周りの人が信じられなくなります。いつ誰が襲ってくるかも知れないという恐怖感はよく表現されていました。
あまりのねちっこいむ襲撃ぶりに、スペンサーはジェンに自分の秘密を打ち明けるのです。けれども妊娠が分かったジェンは、強い母親としてひとりで生きていくことを選択します。さあて、夫婦げんかしている余裕はないほど、攻撃は続いているのに、ふたりの関係はどうなっていくのか?
う~ん、やっぱりヤマ場はラブコメでしたね。キャサリン・ハイグルの生娘から、人妻、さらに母親と自覚する時の表情の変化が良く出ていて、なかなか演技達者な女優さんだと思いました。
とにかく痛快な作品ですので、『ナイト&デイ』では納得できなかった人に、特にお勧めします。