劇場公開日 2011年8月27日

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日輪の遺産 : インタビュー

2011年9月6日更新
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福士誠治、戦争未体験世代が見つめる日本再生への道

鉄道員」「地下鉄(メトロ)に乗って」を生み出した作家・浅田次郎が、自らの原点だと語るベストセラー小説「日輪の遺産」。「半落ち」(2004)、「出口のない海」(06)の佐々部清監督がメガホンをとり、第2次世界大戦敗戦を目前にした日本を描く。堺雅人中村獅童とともに、祖国復興のため奔走する軍人・小泉重雄を演じた福士誠治。戦争未体験世代として、何を感じたのだろうか。(取材・文・写真/編集部)

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くしくも3月11日に発生した東日本大震災から、復興に向かう中での公開となった。敗戦後の惨状から再生を目指すたくましい姿は、「人間が生きている限り、人が集まる限り、劇的には変わらなくても、一歩一歩変われる」と力強さを与えてくれる。

1945年、日本軍首脳部はポツダム宣言を受諾し無条件降伏を受け入れた。そして昭和天皇は、「終戦の詔勅(しゅうちょく)」を玉音放送し、国民に敗戦の事実を告げる。祖国再興のため極秘任務を命じられた3人の軍人と平和を愛するひとりの教師、そしてひたむきに生きる20人の女学生に託された日本の未来。「戦争の時代」のただ中に生き、日本人の強い信念や勤勉さに焦点をあてる。敗戦に際して、ふたつの時代に向き合った福士は、「この時代のお話を作ることは必要なこと」だと強く感じた。

「『日輪の遺産』は、戦っている姿よりも物語性なんです。作品を見てもらったときに、誰かに対する思いや核にある美しい部分を感じてもらえると思う。地道に頑張る姿に、日本人の持つ心の美しさと勤勉さがあるんです」

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戦争を経験していない世代としては、「何が正しいかわからないし、答えは見つからない」。それでも、敗戦後の日本という未知の状況下で国家の明暗を握る軍人役に体当たりで挑んだ。

「あの時代に生きていた人がいるということは、それだけいろいろな気持ちがある。どれだけリアルに時代や人物像を描くかということよりも、僕は物語に入って小泉という役をどう演じようかなという思いが強かったですね。物語を通じて、人間の力強いところを感じてもらいたい」

東部軍経理部・主計の小泉中尉は、東京帝国大学を首席で卒業した大蔵省きっての逸材。密命の指示を受けた3人の軍人の中で、頭脳としての役割を果たし、実直に任務遂行にあたる。「外で戦う望月、軍隊に所属する真柴。その中で、僕(小泉中尉)は情報収集する戦い方だった」と分析。難しいセリフ回しが多い役どころを「軍人に近くない人物」を思い描き、「頭で戦う勤勉さを出したい。力よりも頭」と個性を確立させた。

近衛第一師団・少佐の真柴司郎役に扮した主演の堺も、福士の演技に魅了された。「『すごく真っすぐに来るな』って言われたことあるんです。(福士の抱いた小泉という役どころの)イメージ像では腕力はない分、言葉で事の重大さを伝えるときに熱を持って言いたくなってしまったんですよね。現場で一生懸命さを出せたからよかったんじゃないかな」

難解なテーマを見事に映像化したのは、精力的に人間ドラマを撮り続けている佐々部監督だ。「出口のない海」では、太平洋戦争最中に学徒出陣する若者の苦悩をあぶり出した。「佐々部監督の作品は、人間を映し出す作風が好き。現代物でたくさん笑いのあるような作品でも、監督が『やろう』と言えばやりたいなって思ってしまう」と、監督が出演の決め手となったことを明かす。

そんな佐々部監督の魅力は、「物づくりの実直さとかまじめさ」。8年ぶりとなった作品づくりは、「一緒にものづくりしたいっていう思いがものすごく大きかったんです」と話す。「一緒にいてとても楽しいんです。(佐々部監督が)映画づくりが好きなのがあふれ出ていて、僕も好きだから集まってやろうかっていうすごく単純な感情があったので。またできたらうれしいですね」

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戦時中と現代で、約70年の時を越え何人もの人物の感情が絡み合ったストーリーは、「ゴールがない」。「隠ぺいがテーマの映画ではなく、歴史だけでもない」作品だと振り返り、「感じるものはたくさんあるけど、ひとつの感情だけで出来あがっている映画じゃない」と強調する。

「映画を見て感じたことが、その人の正解だと思うんですよね。さまざまな思いがあふれているので、思いの中で何色を取るかは見ている人によって変わってくるのかな。登場人物の誰に感情移入するか、見る環境や気持ちによって変わってしまうくらい壮大で面白い作品なんです。見終わって感じるものはたくさんあるはず」

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インタビュー2 ~堺雅人、初の軍人役で祖国復興への思いを熱演(1/2)
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