「凛として、輝く」ぼくのエリ 200歳の少女 ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)
凛として、輝く
北欧スウェーデンから届いた、ベストセラー小説の映画化作品。
孤立、孤独、そしてその中に小さく強くある希望を、力強く描く。吸血鬼という古典かつインモラルなテーマに主題を置きながらも、その裏で華奢な、そして繊細な一人の少年が辿る心の成長物語という側面を丁寧に、熱を持って作り上げていく、端正な佳作。
北欧スウェーデンの作品では、昨今「スウェーディッシュ・ラブストーリー」をはじめとした魅力満載の作品が日本で続々公開され、映画市場としての地位を確立しつつあるが、その多くの作品に貫かれる寂しさ、空虚な空気感は、日本にある曖昧さに通じるものがあり、心地よい。それが、スウェーデン映画に日本人が惹かれはじめている一つの理由なのかもしれない。
特に、目を見張る場面がある。それは、バンパイアとして常に血を求めている少女、エリのため、彼女の父が一般人を捕獲し、木に吊るし、血を収集する場面。ただ残忍に他人の血を吸い取る光景を見慣れている私達にとって、この場面は違和感の極みである。一瞬の殺戮から生まれる美学を超え、バンパイアが息を潜めて生きていく、その焦り、生々しさが凝縮される。他のバンパイア映画が目を背けてきた生活感が切り取られ、ただ狼狽させられる。これが、吸血鬼が生きていくということであり、バンパイアが凛と輝くための道なのだ。
題材・ストーリーに目新しさは無いかもしれない。だが、この作品にはバンパイアを神格化せず、一つの生き物として見つめる視線がある。これは、数多の類似品には真似できない、私達の思考への挑戦である。
混沌とした現代に、その中を生きる私達に突きつける物語への挑発。見事にはめられた先にある満足感、そして幸福感は予測を遥かに超える。吸血鬼は、物語の中で生きていく。焦りと、飢えと、その先にある輝きをもって。