「料理の記憶を通じた主人公のふたりの絆の深さに、思わず涙がこみ上げ来ました。」恋するナポリタン 世界で一番おいしい愛され方 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
料理の記憶を通じた主人公のふたりの絆の深さに、思わず涙がこみ上げ来ました。
鑑賞券が800円で売られていたので、あまり期待しないで鑑賞しました。ちょっと突っ込みたくなる無理な設定にはダメだしする人も多いことでしょう。さらに冒頭は、やや演出のノリが悪く、台詞に固さを感じてしまいました。
でも、美味しい料理に託さされた心暖まるメッセージ。そして後半に明かされていく、主人の二人の絆の深さに思わずホロリとされられ、見終わったときには心がほこほこと暖かい思いで一杯になりました。二人を繋ぐ年少時から馴染んできた味というのは、忘れがたいものですね。
最後はちょっと悲しい結末になるのだけれど、幼なじみ以上恋人未満という、二人の微妙な関係にヤキモキしつつも、こういうのも素敵だなと思いました。
もちろん料理のシーンもたくさん出てきます。美味しそうだし、ペロンチーノの基本テクニックなどイタリア料理のコツにも触れられているので、料理の参考にもなる作品でした。
『かもめ食堂』などグルメがメインの映画と違って、こちらは『転校生』のような人格転換がメインのドラマです。でも『転校生』のようにハッピーなものではなく、ピアニストの槙原佑樹が飛び降りたところに、たまたま田中武が走り込んできて、ぶつかってしまうというもの。
武は死んでしまうけれど、何故か生き残った佑樹の意識だけ乗り移ってしまうという設定なのです。
幼なじみを殺された、佐藤瑠璃は当然佑樹を憎んでいます。どんなに佑樹の肉体に潜り込んだ武の意識が、二人しか知らない昔の話をしても、無視をされ、武である証明のために料理を作っても、口もつけず拒絶されてしまいます。
瑠璃は、武が生まれ育ったイタリアで孤児になって、日本の親戚に預けられたときから親しくなり、ずっと料理自慢の武の料理を味わってきたのでした。そして武は、自分の料理を世界一美味しそうに食べる瑠璃の笑顔を見ることが生き甲斐となり、より料理の世界に没頭していったのです。
そんな関係だから、武は料理さえ味わって貰えばわかるはずと思ったのですが、外見は自分を死に追いやった佑樹のままでは、どうしても瑠璃を説得できません。俺なんだぁ!叫ぶ武の気持ちが切なかったです。
佑樹との対面を厭がることはわかっていても、武はどうしても瑠璃に伝えたいことがあったのです。
それは、あの事故の直前のこと。自分の元上司のオーナーシェフ水沢譲二が瑠璃にプロポーズすることを知った武は、瑠璃に自分の気持ちを伝えたくて、一目散に駆け込んだのでした。しかし、死んでしまい思いを伝えられなかったのが、心残りだったのです。
どうして仲のいい二人は、恋人にならなかったのかと不思議に思われるでしょう。ストーリーは何度もカットバックしながら、兄妹のように仲のよすぎたふたりの関係を描いていきます。そして瑠璃の父親が死んだことに触れて、武には何でも気持ちを打ち明けられる家族同様の関係を瑠璃が求めていたことを、上手く示していました。そんな複雑な瑠璃の気持ちを相武紗季が好演していて、充分に彼女の気持ちが伝わってきました。
佑樹は、瑠璃の苦しむところを気遣い、自分の意識の時に、わざと瑠璃にキスを求めて、武ではないことを自覚させて、辛い気持ちを起こさせまいとします。
佑樹は、著名ピアニストの父親に認められないということの他に、余命が行くばかりもないという絶望感に包まれていたのです。しかし武と合体して、料理の楽しさを共有するなかで、自身のときも残された時間にポジティブに向かっていく意欲を持ちます。そんな複雑な役柄を眞木大輔が渋く、演じていました。
佑樹が迫ったことで、かえって踏ん切りが付いた、瑠璃は水沢に逆プロボーズします。結婚が決まった水沢に、武は結婚式の料理を作らせてくれと頼みます。佑樹の作る料理を味わった水沢は、武の味が完璧に再現されていることに驚き、承諾します。
結婚式当日、瑠璃には料理人の名前を明かさず次々に登場する料理の数々。それは、幼い頃から瑠璃がせがんで武に作って貰ったものばかりでした。一つ一つの料理が出される度に、その料理にまつわる子供の頃の思い出にカットバックされて、涙ぐむ瑠璃。そのピュアな涙に見ている方も思わずもらい泣きしてしまいました。
思わず武の元へ駆け出す花嫁。瑠璃を見た瞬間、実はホントは言いたかったことがといいつつ倒れてしまう武。
起き上がったとき、急に君は誰と言い始め出します。一体何が起こったのか、感動のラストはスクリーンでお確かめください。