「予想以上にキチンと出来上がったボクシング映画」あしたのジョー 全竜さんの映画レビュー(感想・評価)
予想以上にキチンと出来上がったボクシング映画
期待値ゼロで観に行ったためか、意外と面白かった。
皮肉屋でひねくれ者やけど、人懐っこくて憎めないキャラクターが持ち味の矢吹丈やのに、山P丈はひたすら無口かつ陰気で、
「わぁ〜〜、めちゃめちゃジョー暗いやん」ってイメージの違いに戸惑ったものの、世界に入り込めたのは、彼を支える他の登場の圧倒的な存在感に尽きる。
強烈な風貌とテンションでコントの塊みたいな丹下段平を強大な表現力とボクシング愛で笑わせに走らず、一コーチとして言動に説得力を持たせる香川照之はやっぱりただ者ではないなと実感した。
泪橋の由来を熱く語る場面なんざぁ哀愁すら漂う。
また、最大のライバルである力石徹を渾身の演技で魅せつけたのは伊勢谷友介。
原作でも語り草になっている過酷な減量に挑む地獄の体験を身を持って体現したのはストイックの域を超えている。
水一滴すら受け付けず、苦闘の果てに出陣した計量で肉体を露わにする場面なんざぁ、観客一同、思わず「おぉおぉ…」と息を呑んでしまった。
かつて『ピンポン』にてCGとスピードでスポーツの迫力を造り上げた曽利イズムは今作でも健在し、格闘シーンは観る者の血を湧かせていく。
スローモーションと顔面ドアップを多用し、各ボクサーのパンチの威力を鋭角にスクリーンから浴びせ倒してくれる。
特に、矢吹の必殺技《クロスカウンター》にその美学が集約化されており、ボクシング映画の新たなる表現方法の飛躍を実感した。
紀子が登場しないため矢吹の恋愛エピソードが削除されていたり、力石の死のトラウマ克服etc.が大幅にカットされていたのは物足りなかったが、《大掛かりなモノマネ大会》と言い切ったらそれまでだが、香川照之の丹下や伊勢谷友介の力石etc.尋常でない成りきり度は凄まじい。
キチンと銭を取れるボクシング映画に成っているので、引き続いて、丈が灰になるまで描き切って欲しいなぁ〜っ期待感に溢れた。
では、最後に短歌を一首。
『明日のため 夕日打つべし 泪橋 削る拳は 相打ちを待つ』
by全竜