劇場公開日 2011年2月11日

あしたのジョー : インタビュー

2011年2月7日更新
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香川照之、30余年の情熱を発散し尽くした「あしたのジョー」

累計2500万部を誇る往年の人気ボクシング漫画を実写映画化した「あしたのジョー」。主人公・矢吹丈の師匠として、強烈なインパクトを放つ丹下段平を演じたのが香川照之だ。中学生のころからボクシング観戦を始め、以来30余年にわたって情熱を傾けてきた自負がある。それだけに、ボクシングに対する熱い思いはすべて丈役の山下智久、ライバル・力石徹役の伊勢谷友介に注いだといっても過言ではない。自身は精巧な特殊メイクと独特のダミ声で段平のキャラクターになりきりながら、「僕にとっては映画ではない」と徹底してリアルファイトを追求し、スクリーンに反映させようと奮闘した軌跡が、香川の力強い言葉から感じられた。(取材・文:鈴木元、写真:堀弥生)

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俳優デビューから22年、間違いなくベテランの域に達している香川だが、“ボクシング歴”はそれを優に上回る。中学時代の同級生と後楽園ホールに通いつめ、「オーバーではなくて、1日に15時間くらいボクシングのことを考えている」生活を30余年も送ってきたのだ。

一方、「あしたのジョー」は1967年に連載がスタート。香川が1歳になったばかりのころで、思い出として残っているのは力石の死後を描いたアニメ「あしたのジョー2」(80~81年)だという。

「ボクシングを見始めた後なので、再放送か再々放送だと思います。当時は全く分からなかったですね。ボクシング的なリアル度から見ると、力石の減量にしても、あれだけダウンしても立ってくるなんてこともあり得ないので。(2に登場する)カルロス・リベラやホセ・メンドーサは、多分、当事のバンタム級にいたこの人をモデルにしたんだろうなあという組み合わせで見ていましたね。そんなに強い思い入れがあったわけではないんです」

ボクシングそのものへの思いが強いからこそ、実写での映画化には懐疑的だった。だが、自らの体にしみ込んだボクシングを、俳優業と結びつけられると発想を転換することによって気持ちを固めるのに時間はかからなかった。

「最初はドッキリ。全く信じられない状態から始まって、本当にやるということになると、ボクシングを見始めた30何年からくる命令があって、その命令は確かなものだという自信があるので迷わなかった。あとは、自分の100%を出すという命令だけ。やっと、ボクシングを仕事で生かすときがきたのかなと」

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「この役をやるためにボクシングを見ていたようなもの」とまで言う丹下段平は、「あしたのジョー」のアイコンといえる特異なキャラクターだ。スキンヘッドにアイパッチ、特徴的なヒゲという容姿はもちろん、「立てえ、立つんだあ、ジョー!」が主人公を差し置いて最も有名なセリフになっていることでもうかがい知れる。香川もここ数年で、原作を忠実に再現した「20世紀少年」3部作のヨシツネ、キャラクタライズしないで演じた「カイジ 人生逆転ゲーム」の利根川幸雄と、漫画の映画化を経験している。段平でこだわったのは、見た目。曽利文彦監督とは、相当なせめぎ合いが繰り広げられた。

「僕自身が監督なら、段平はフルメイクで見たいと思ったんです。山下くんと伊勢谷さんは、“減量”というふだんとは違うものになっていく過程があるから、僕は付け足すことで違うものになる。その意味では、3者のバランスが取れていたと信じていました。でも、曽利監督は、僕だけが作り込むのはバランスが悪いと。そして、5回くらいメイクテストをする中でもノーの声が多かったんですが、特殊メイクの人が作ってきたマスクが非常に満足のいくものだったので、伝えられる自信が僕にはあった。だから、監督には『大丈夫だから』と言うしかなく、それだけで押し切らせてもらいました」

特殊メイクには、マスクだけでなく出っ歯や胸毛、二の腕の体毛までつけるため2時間以上を要する。しかも、マスクは使い捨て。撮影中、実に30個以上の“段平マスク”が作られ、日によって出来ばえは違ったというが、「これを超える特殊メイクは『アバター』の方向しかありえない」と豪語する。

「どこに線が入っているか分からないし、アイデアもいっぱい入っている。放っておいたら延々とやっていますよ。『そろそろお願いします』というところで、特殊メイクの人が諦めて切るという感じでしたね。あとは、何か(セリフを)言えばもう成立しちゃうなというのがありました」

インタビュー2 ~香川照之、30余年の情熱を発散し尽くした「あしたのジョー」(2/2)
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