ゴーストバスターズ : 映画評論・批評
2016年8月16日更新
2016年8月19日よりTOHOシネマズ日劇ほかにてロードショー
オリジナルのコンセプトを尊重しつつ、その欠点を補った最高に愉快な快作
新生「ゴーストバスターズ」が最高に愉快だった旨を先に明言しておくが、今回のリブート版は全米で理不尽な攻撃にさらされ炎上騒ぎが巻き起こった。80年代に大ブームとなったオリジナルから32年、主要キャストを女性に変えたことにオリジナル原理主義のファンたちが噛みついたのだ。
無根拠なヘイトスピーチと化したアンチ派の罵詈雑言は書き出す価値もないが、どうしても不思議だったのはオリジナルがそれほどの傑作だったと思えないから。あくまでも筆者個人の見解ではあるが。
ただ熱狂的ファンを追ったドキュメンタリー「ゴーストヘッド ~熱狂的ファンたちの今~」を観て、過剰ともいえるリブートへの憎悪も多少は理解ができた気がした。30年の間に全米にネットワークを持つファン組織が生まれ、コスプレ姿で社会貢献することが彼らの生き甲斐になっていたのだ。眼に涙を浮かべて「ゴーストバスターズ」で人生が救われたと語る彼らの姿からは、オリジナルが無条件に愛されている作品なのだと伝わってくる。
オリジナル版はNYを襲う巨大なマシュマロマンのビジュアルに代表されるように、バカでかいスケールでユルいギャグをかますコメディだった。映っているものとやっていることの差異が大きいほど可笑しいというコンセプトだが、いささかナンセンスに過ぎた。89年の「ゴーストバスターズ2」が主人公の人間的成長をテーマに取り入れたのはその反省もあったのだろう。
その点、新生「ゴーストバスターズ」はオリジナルのコンセプトを尊重しつつ、疎遠だった元親友が再会し、ゴースト退治を通じて絆を取り戻すという王道のカタルシスが備わった。名うてのコメディ女優たちも役にハートを吹き込むことに成功しているし、“バカすぎるイケメン”に扮したクリス・ヘムズワースの怪演は今年の助演男優賞に相応しい。コアなファンたちはオリジナルの欠点を補った思わぬ快作を前にして、自分たちの忠誠心を試されたのではないのか。
今回のリブートは「ゴーストバスターズ」というブランドを進化させ、一見さんも両手を広げて歓迎してくれる懐の広いエンタメだ。続編企画ではひとつにまとまらなかった曲者ぞろいの旧キャストがそろってカメオ出演していることも、彼らが今回のリブート版を認めている何よりの証拠。そんなの金のためだろうと言う意見に対しては、旧作のアイヴァン・ライトマン監督が「ビル・マーレイに嫌がることをやらせるなんて絶対に不可能だよ」と笑い飛ばしている。
(村山章)