パリより愛をこめて : 映画評論・批評
2010年5月11日更新
2010年5月15日より丸の内ピカデリーほかにてロードショー
ベッソンらしさが如実に現れた笑えるスパイ・アクション
「96時間」がヒットして製作オファーが相次いだはずのリュック・ベッソン×ピエール・モレルのコンビが、満を持して放った最新作の舞台は、またもパリ。リーアム・ニーソン以上にパリには不釣り合いなジョン・トラボルタ扮する型破りなCIA捜査官ワックスが、行く先々で銃弾と差別用語を連発しながらティープなパリへ分け入って行く。
装着が面倒なカツラや植毛から解放され、スキンヘッドの敏腕コマンドーを喜々として演じるトラボルタのルックは、「トランスポーター」のジェイソン・ステイサム以来、ベッソン映画の基本コンセプトである、イケメンじゃないヒーロー像を踏襲したもの。カーマニアのベッソンがそのカメラワークに惚れ込んで演出を任したモレルの撮影技術は、特にクライマックスのカーチェイスシーンで傑出している。バズーカを背負ったワックスがアウディの車窓から身を乗り出し、テロリストが運転するボルボに照準を合わせる場面のグルーブ感は、アクション・マニアのアドレナリン分泌を促すには充分だ。
それにしても、登場人物たちのフランス人評が皮肉で笑える。駐仏アメリカ大使が外務大臣について、「2人の秘書と寝るなんてさすがにフランス人だな」とか、空港で拘束されたワックスが警官に対して、「このカエル喰いめ」とか。この言わば祖国に唾を吐くような亡国ぶりこそが、たとえ話の展開は多少乱暴でもリュック・ベッソン映画の真髄だと、改めて痛感した次第である。
(清藤秀人)