劇場公開日 2010年4月17日

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「確信のもとに、集え!!」オーケストラ! ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0確信のもとに、集え!!

2011年3月2日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

泣ける

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幸せ

フランス人監督、ラデュ・ミヘイレアニュ監督が、ロシアのベテラン俳優、アレクセイ・グシコク、「イングロリアス・バスターズ」のメラニー・ロランを迎えて描く、音楽を心から愛する者のためのクラシック映画。

「音楽がもつ、力」その一点への確信のみから動き出した映画のようにも思えてくる。撮影を重ねる中で突発的に生まれるアイディアを臨機応援に積み重ね、物語をかき回していくような自由な、そして予定調和の安定感を敢えて弾き飛ばす勢いが物語の中に充満している。

本作の軸となってもおかしくない主人公、アンドレイとヴァイオリンの美人ソリストとの間係も、思いつきで付け加えてみましたがいかがでしょうか?と言わんばかりの薄い味付け。だが、観客はその暴走とアドリブを笑顔で許してしまう。なぜか?

あくまでも、この作品は「自発的な音楽」が一本の図太い軸として屹立しており、その裏にある人間ドラマや、駆け引きは副産物に過ぎない。この唖然とさせる潔さ、作品への強い自信を観客は求めているからに他ならない。その点では、他の追随を許さない野生味溢れる「音楽映画」として存在感を打ち出している。

もっと広げていけば、ドラマ一本のテーマになりそうな家族の相関図も随所に垣間見えてくるのに、敢えてそちらには視点を向けていかない。「そっちはいいから、とにかく音楽、音楽!!」これは、作り手の音楽への情熱がもたらす誘導であり、道化である。だからこそ、観客は何も深い観察や疑念を抱く事無く演奏にのめりこんでいける。

何せ楽団員に求められるのは「寄せ集められた感じ」である。演者として嬉々として参加していきたい作品ではない。それでも、演奏する人間は心底音楽と向き合い、この作品を愉しもうとする幸福な表情を見せる。作り手が演者を選ぶ場面に立ち会いたかった。きっと作り手は笑顔で、幸せ一杯に演者に向かって叫んだのだろう。

「さあ、音楽がこの作品を支えている。貴方も音楽だ。この作品を奏でる音符だ。素晴らしい音楽のために、確信を持って、集え!!」

ダックス奮闘{ふんとう}