劇場公開日 2010年4月17日

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オーケストラ! : 映画評論・批評

2010年4月13日更新

2010年4月17日よりBunkamuraル・シネマ、シネスイッチ銀座ほかにてロードショー

今のロシアや東欧の危うさを笑い飛ばすユニークな秀作

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ソ連時代の圧政で地位を奪われたロシアの元天才指揮者が、30年後の今、共に音楽界を追われた演奏家たちを集め、ボリショイ交響楽団に成り済ましてパリ公演を行う。そんなあり得ない展開なのに、ぐいぐい引き込まれ、クライマックスの公演では実話のごとく感じられ、深い感動に包まれるユニークな秀作だ。

元指揮者のアンドレイはロシア人だが、中心となる仲間は東欧ユダヤ人やロマ(※)で、独特のユーモアとバイタリティ、泥臭い音楽に魅せられる。アンドレイが仲間を尋ね回る件は「ブルース・ブラザース」、混乱に乗じてパリ行きの障害をクリアしていくあたりはエミール・クストリッツァ作品風の味わい。ラデュ・ミヘイレアニュ監督は、80年に共産党政権下のルーマニアから亡命したユダヤ系で、マイノリティの描写はじつに生き生きとしている。

パリ到着後はシリアス度をプラス。マネージャーの共産党員は党が亡霊であると思い知り、楽団員たちは自由を謳歌して行方をくらます。そこにアンドレイと、彼がソリストに指名したフランスの美女バイオリニストの因縁が絡む。そこには監督の巧みなミスリードがあり、公演はより劇的なものとなるのだ。

それぞれの思いが解き放たれ、ひとつになって飛翔するチャイコフスキーのバイオリン協奏曲は圧巻。疑問や謎が、同時にすべて明かされる演出も見事。監督は、人間の強さを軸に、忘れてはならない国家の罪を振り返り、今のロシアや東欧の危うさを笑い飛ばす。そのうえで、自由な心が集まって生まれる至上のハーモニーを魔法のごとく歌い上げた。

(※)北インドのロマニ系に由来する移動型民族

山口直樹

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