「“命”というこの軽くて重い代物」トゥルー・グリット 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
“命”というこの軽くて重い代物
コーエン兄弟、初の西部劇。
『アカデミー賞10部門ノミネート』と箔が付いた上にジェフ・ブリッジス主演となると
これはもう素ン晴らしい映画を期待せずにはいられない。
不穏な空気を漂わせる予告編も絶品だったし。
けど、ま、そう期待通りはいかないもんです。
コーエン兄弟は好きなので何だか申し訳ないが、あまり動きの無い中盤は
眠気に襲われてちょいキツかった……いや、正直言うと、5秒くらい意識を
失ってた時があった気がする……。前日夜更かししてたせいだ、うん、きっとそうだ。
残念ながら話は眠いが、画作り・美術・音楽・演技はまさしく一級品。
なかでも、主人公マティを演じるヘイリー・スタインフェルドがとにかく素晴らしい。
いやぁ、カッコいい。口喧嘩と意志の強さでは、誰もこの主人公には敵わない。
帽子に新聞紙を詰めるシーンや『馬と馬の弁償代をよこせ』と迫るシーンには笑った。
そしてもうひとつ。
この映画からは渇いた死の臭いがする。
棺屋、処刑台、吊られた男、洞窟の男、後半になってごろごろと増えてゆく死体の数。
それこそ空っ風に乗って鼻腔に入り込む砂粒のように、そこら中に“死”の臭いが漂っている。
大人もたじたじになる程に口が立つマティだが、金のやりとりと命のやりとりでは勝手が違う。
50ドル出そうが100ドル出そうが、もはや金など意味を為さない。
仇討ちに燃える娘の命も、伝説の保安官の命も、ちんけな悪党の命も、
何も無い砂漠の上で銃を握り、向き合えば平等だ。その重さに違いは無い。
相手の命を奪うなら、その覚悟はあるか。
自分もそれ相応の代償を払うかもしれないという覚悟があるか。
コグバーン保安官にはそれがあった。
彼は生きる為に殺すという獣のような行動原理を躊躇なく実行できる、
非情で、ある意味では最もフェアな人間だった。
殺さないでという懇願も虚しく容赦無くリトルブラッキーが殺された瞬間、
彼女は自分が行った100ドルぽっちの取引が、どれほどに重い取引だったかを悟っただろう。
命は信じられないほどあっけなく終わる。
それなのに、命はかくも重い。
こんなに重いものが一瞬で消え失せてしまうなんて、こんな不条理な話も無い。
だが、それが胸糞悪い事実なのだ。
この映画は命を尊びも蔑みもしない。
失われて当然の命など無いが、
同時に、失われない命など無い。
冷徹なまでに、フェアな映画だ。
<2011/3/20鑑賞>