劇場公開日 2010年2月27日

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しあわせの隠れ場所 : 映画評論・批評

2010年2月23日更新

2010年2月27日より新宿ピカデリーほかにてロードショー

格差への想像力を喚起させ、生活の足元を見つめ直させる

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寒さに震えて夢を抱くことすら忘れ、人生に絶望していた黒人少年が、裕福な家に招き入れられ、やがて家族の一員として眠れる才能を開花させる。まるで、田舎娘が原石から宝石へと磨き上げられる「マイ・フェア・レディ」の格差社会版のよう。ただし実話をベースとする本作は、現役アメフット選手へと成長する少年を軸に、もうひとつのドラマの方に軸足を置き、ホーム・コメディと見まがう軽やかなタッチで綴られていく。

当初、サンドラ・ブロック扮するエネルギッシュな女性は、夫と子供達に対し、貧しい者への接し方を示そうとしただけだったのかもしれない。憐れみはすぐに消え去る。温かさに満ちたひとときを共有した少年が心の底から感謝する振る舞いに、豊かな者の方が欠落していた何かを教えられるという逆説。家族は、当然の如く享受していた衣食住や教育の本当の有り難みを知る。そう、むしろ豊かな白人家庭が目覚めていく物語こそテーマだ。

事実をデフォルメしている点は多々あるようだ。しかし、批判的な視線の交わし方が巧妙。寵児となった少年をめぐり、実は自己顕示欲を満たすことが家族の目的だったのではないかとメディアが騒ぎ立てるくだりの、笑いと涙を織り交ぜた内省的な描写には好感がもてる。中流から貧困層に転落する家庭が続出する今だからこそ、自らの生活の足元を見つめ直す寓話として、持たざる者への想像力を呼び起こす本作は十分に機能している。

清水節

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