「復讐者の真黒な悪意が犯人を蹂躙しつくす快感」告白(2010) かせさんさんの映画レビュー(感想・評価)
復讐者の真黒な悪意が犯人を蹂躙しつくす快感
2009年本屋大賞受賞。
湊かなえの同名小説の映画化。
【ストーリー】
学級崩壊した中学のクラス。
その担任教師が辞任し、最終日に放った言葉はこうだった。
「このクラスには、私の娘を殺した犯人がいる。私はその二人にエイズで死んだ夫の血を混ぜた牛乳を飲ませた」
静まり返った教室で、今までになく行儀よく座る生徒たちの間を、教師は犯人たちがどんな手口を用いて娘がどんな風に殺されたのか、その経緯を淡々と説明しながら歩く。
ついさっきまで粋がりたおしていた生徒らが、教師の底なしの悪意に囚われ、拷問の様に重い空気を味わいながら、息を殺してその言葉をただ聞く。
ーーそして犯人たちは不登校になった。
共犯の少年は教師によって追い詰められ家庭ごと壊された。
だが主犯の少年はさらなる犠牲者を求め、もっと大きな凶悪犯罪を計画していたのだ。
これは中二病のサイコパス少年を、彼の悪行によって悪魔のような衝動に開眼した純度100%本物のサイコパスが、その全てを蹂躙し破壊し尽くす物語です。
動機は殺された娘の復讐ですが、犯人二人とその周囲にいたワガママ放題だった生徒たちを、その後も束縛し続ける、静かな語り口ながら生々しい呪いの言葉が強烈に耳に残ります。
復讐の起点となったホームルーム以降、犯人や他の生徒たちがどう壊れていったかが、克明に描かれるのです。
そして思春期の幼稚な信仰を叩き潰し、ラストに相手の一番大切なものを奪う瞬間の、ものすごい気持ちよさ。
心の底からざまあみろと思わずにはいられません。
『すでに終わった犯罪』として語られる、犯人への復讐の一部始終。
感情を織り交ぜない松たか子の平滑な声が、クライマックスへの期待をゾクゾクするほど煽ります。
全てを失い、犯人が絶望してひれ伏したところに、あの最後のホームルームで教室をめぐった歩調と同じ、ゆったりと一歩また一歩と近づいてくる教師の、悪意満点のラストの言葉。
犯人の大切なモノを、完膚なきまで蹂躙しつくした復讐者の天才性。
重ねて書きますが、復讐が成就した瞬間、ものっすごく気持ちよかったです。
嫌ミス(胸糞)の女王と言われた作者の、衝撃のデビュー作。
ぜひぜひご覧いただきたい逸品です。
> 感情を織り交ぜない松たか子の平滑な声が、クライマックスへの期待をゾクゾクするほど煽ります
たしかに。期待してはいけないのでしょうが、実際は俺もおっしゃる通り。
> 胸糞の女王
その言葉はなんか可哀想なので「イヤミスの女王」と呼んであげてください