「他人を救うことで自分を救うというエゴ。」渇き さぽしゃさんの映画レビュー(感想・評価)
他人を救うことで自分を救うというエゴ。
わたしの肉を食べ
わたしの血を飲む者は永遠の命を持つ
わたしは彼を
終わりの日に復活させる
ヨハネ6章30-71節
して
神父は、キリスト、救世主になりたい男です。
大勢を救う為に、自分の命を差し出します。間接的な自殺です。
自分のちっぽけな命を、大勢を救うことで価値ある物に昇華させたい。
そんな病んだ願望が、透けて見えます。
つまり、劣等感を抱えた人なんです。
感謝されることで、自分の価値を高めたい。優越感に浸りたい。とても聖職者の考えではありません。
神父は500人の治験者の中で、唯一生き残ってしまう。奇跡の救世主に、みんな救いを求めます。うちの子が白血病なんです!治してください!と縋ります。
しかし神父は、病院で点滴している患者の管から血をチューチュー吸って、人妻テジュと肉欲に溺れ、テジュ可愛さのまあり夫を殺してしまう男です。
奇跡の救世主ではありません。
そもそも、自分は人を救えるような人間ではなかった。生かされたのは奇跡ではなく、罰かも?しかし周りは救世主と縋ってくる。
良心が咎めます。背負えなくなる。克服した劣等感がまた首をもたげる。みんなの縋るような視線が怖くなる。逃れたくなる。
結果、神父は女性をレイプしようとします。勿論、真似だけです。周りに「自分は救世主ではない」と分からせるために。
ここではっきりします。
神父は他人を救いたかったのではなく、他人を救うことで自分を救いたかったということが。
官能的なシーンが沢山あります。
激しい欲求に抗うように、真夜中に下着姿と素足で走り続けるテジュを見つける神父。そっと抱きかかえ、自分の靴にテジュの足を入れる。
青いドレスを来たテジュの白い肌が、とても美しい。虐げられていた時の無表情が、神父と激しく愛し合う度に精気が漲って、だんだん妖艶になっていく。
テジュが虐待されていると思い込んで夫を殺した神父は、それが嘘だったと気付きます。思わずテジュを絞め殺してしまう。
テジュの死体を見つめる神父は、我慢できずに血を啜る。と、同時に、自分の血をテジュに与える。テジュの手首を吸いながら、自分の手首をテジュに吸わせる。まるで、バンパイアの血の交尾。そしてテジュは、バンパイアとして蘇る。
キャーキャー声を上げながら、楽しそうに血を吸うテジュは、インタビュー・ウィズ・バンパイアのクローディアです。
キム・オクビンのことをあまり知らないのですが、華奢で童顔なのに、激しいラブシーンもやるし、「私は神を信じてないから地獄には落ちない」という挑戦的な視線も魅力的。存在感はソン・ガンホに負けていません。
殺した夫の亡霊がお笑い担当でコメディ的要素もあり、サスペンス、ホラー、グロテスクでエロティック。そして最終的には、まるでボニー&クライド的なラストが待っています。
本作の「渇き」とは、欲の対象に対する渇き。渇望です。「人間ってのは所詮、欲の塊じゃないか」ということを、まざまざと見せてくれます。力強い!
けど歪な作品なので、大きな声でお薦めできません。
(小声で)是非、観てね。