劇場公開日 2010年2月27日

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渇き : 映画評論・批評

2010年2月23日更新

2010年2月27日よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかにてロードショー

自己と他者に向けられた鋭い眼差しが、独自の世界を切り開いていく

“バンパイア映画”と“フィルムノワール”はどちらも、欲望、肉体、暴力、死、影などを通してエロティシズムと深く結びついている。だから、ふたつのジャンルを巧みに絡み合わせたこの映画では、エロティシズムが際立つが、もちろん見所はそれだけではない。

自己と他者との関係というテーマに関心を持つ監督は少なくないが、誰もパク・チャヌクのようには描かない。復讐する者とされる者は、決して和解に至ることなく、双方の痛みが大胆なアプローチと強烈な描写で執拗に掘り下げられていく。自分がサイボーグだと信じる少女に、精神科の治療は通用しない。彼女を生かすためには、サイボーグとしての性能を向上させ、人間に近づけるしかない。

厳格に自己を律するカトリックの神父がバンパイアになるという「渇き」の発想は、アベル・フェラーラの世界を連想させるが、これは衝動の臨界における覚醒を描き出す作品ではない。自己と他者に向けられた鋭い眼差しが、独自の世界を切り開いていくのだ。

神父は、虐げられている人妻に救いの手を差しのべているのか、彼女を純粋に愛しているのか、肉体の快楽に溺れているのか、本能に抗えないのか。人妻は、神父を愛しているのか、利用しているだけなのか。バンパイアになることで、解放されるのか、虜になるのか。彼らの渇きを潤すものとは何なのか。

その答えは、自己と他者を隔てる多様な境界が生み出す混沌、亀裂、深淵に呑み込まれていく。

(大場正明)

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