劇場公開日 2010年10月23日

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ソフィアの夜明け : 映画評論・批評

2010年10月12日更新

2010年10月23日よりシアター・イメージフォーラムにてロードショー

抗う意志も失せた心の彷徨が行き着くところ

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これほどまでに茫然自失し、暗鬱とした主人公の表情は久しく見ていない。舞台はブルガリアの首都ソフィア。格差著しく淀んだこの街は、家族も地域も壊れ排他的である。芸術に挫折した38歳の主人公はドラッグに溺れ、治療の身。17歳の弟は生きるためにギャングに加わる。居場所なき世界、ここでも逃避と破壊だけが生きづらさを紛らわす道だ。弟の生き様をたしなめもしない無気力な兄は、美しき女性に思いを寄せ再生の道をまさぐる。絶望の淵にある心の彷徨こそがテーマであるが、主人公を演じた俳優フリスト・フリストフが撮了間際に薬物過剰摂取で亡くなってしまったという事実は、本作の痛ましさを別次元へと押し上げた。そう、ヒース・レジャーの死が悪とは何かを突きつける「ダークナイト」に憑依したように、フリストフの死は生とは何かを問う「ソフィアの夜明け」に生々しい身体性を与えている。

思えば今年スクリーンに映し出された世界同時多発的な閉塞には、それでもまだ抗う意志が働いていた。「フローズン・リバー」には母性への信頼が、「息もできない」には暴力否定へのプロセスが、そして「ケンタとジュンとカヨちゃんの国」にはフィジカルなもがきがある。しかし本作の終盤には、ささやかな愛を信じることにすら疲弊し、ただ漂うしかなくなって現実がぼんやりと霞んでいく感覚がある。抵抗や暴力の先にある、思考停止と厭世観。本作は決して、対岸の物語ではないだろう。

清水節

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