ケンタとジュンとカヨちゃんの国のレビュー・感想・評価
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たとえぶっ壊せなくても、ほかに道もない
花村萬月原作の「ゲルマニウムの夜」に続く、大森立嗣の監督作「ケンタとジュンとカヨちゃんの国」。タイトルとそのメインビジュアルからもわかるように、ずっしり重い青春映画。
物語はケンタとジュンのロードムービーを中心に進むのだが、そこでふと、この二人に現代の若者が感情移入するのは難しいかもしれないなと思った。孤児院育ちの二人は、もちろん非現実的ではないが、多くの人が共感するには不幸な境遇すぎる。だから“気分”だけでも二人と一緒に旅をしようと思うのだが、二人の悲しみや憎しみを、どこか他人のものとして受け止めてしまうのだ。だからそこでカヨちゃんがキーポイントになってくる。カヨちゃんは三人の中で一番、マジョリティな若者を体現している。少しハズれすぎている感も否めないけど、“愛されること自体”に自分の価値を見出す風潮はまさに今。ひとをどれだけ愛するかではなく、ひとにどれだけ愛されるかで自分の価値を決める。悲しいけど、ローリスクローリターンの後者が圧倒的な今ではないか。
三人の芝居は鬼気迫るものがあって、生ぬるい嘘は感じさせない。ケンタとジュンがイケメンすぎるのは気になるけど、高良健吾の孤児っぽさは見事だし、安藤サクラのホラーばりの表情がスクリーンいっぱいに広がると、思いのほか胸を打たれる。だけど、孤児院、いじめ、重労働とヘビィなエレメントだけが先行して、三人がどんどん遠くなっていく。そしていつしか何も残さずに消えてしまう。カヨちゃんだけがかすかな光として残る。
とにかく“ぶっ壊す”という意気込みのもと、ひたすら北を目指すケンタとジュン。たとえぶっ壊せなくても、ほかに道がなくても、地球はまわっていくもんな。
ラスト、失速するのが残念。最後の15分ばかり、ばっさりなくてもいいと思う。
私たちの望むものは...閉塞からの逃避
この映画のラスト、40年近く前にラジオかよく流れていた岡林信康の名曲「私たちの望むもの」がスクリーンから流れてくる。それを懐かしく聞きながら、今を描いているにもかかわらず、70年代の匂いを演出から終始感じていた意味がわかったような気がした。どこか70年代の映画のような演出やキャラクターの造り方なのだが、それが今の青春群像を的確に表現して見せている。そこが、とても興味深い作品なのだ。
この作品は、孤児施設で育って大人になり、ビルの解体工事を生業にしている、言わば現代社会の片隅で生きるケンタとジュンが主人公だ。しかし映画が始まって30分くらい、ケンタ役の松田翔太とジュン役の高良健吾があまりに顔が綺麗すぎて、小さい頃から苦労してきた年輪を感じなくて、なかなか映画に入っていけなかった。
実はこの作品、監督も役者も芸能人二世が中心というエリート揃いだ。だから、そんなエリートたちが社会の片隅に生きる若者を演じる、ということだけで、この作品を毛嫌いするような人がいても仕方ないかもしれない。しかし、その苦労を知らないような顔立ちの役者たちだからこそ、今の若者、今の青春群像を演じられていることを、まだ見ていない人たちに強調しておきたい。最初はしっくりこなかったエリートの役者たちが、社会の片隅や底辺に溶け込んでいくうちに、自分たちだけでは切り開くこともできない、恐ろしい運命へと導かれていく若者の姿を、見事に演じきっている。
今年、上半期で一番の映画は韓国の「息もできない」だが、この作品のシチュエーションも「息もできない」に近い。まともに育てることもできない両親から生まれたケンタとジュンは、愛情も家族の幸せも知らない。そして絡んでくるカヨちゃんも愛に飢えている日々を過ごしている。そんな人生だからこそ、見せかけだけでない、本物の愛や幸せを求めたいと思う。だからこそ、現代の閉塞的な社会から逃避したい、と思う気持ちは、普通に社会の中で暮らしている我々よりも強いのだ。そこを理解しないと、この作品の物語に共感する人は少ないかもしれない。実際、試写が終わったあとの観客の声はあまりいいものではなかった。普通に見れば「クラい、重い、長い」内容なのだから、観たあとの後味もそういいものもではない。しかし、この映画には普段は見落としてしまう、目をそらしてしまう社会とそこに生きる青春が描かれていることを、観る人にはしっかりと認識してほしい。この作品の社会も、私たちが暮らす社会なのだ。
この作品から70年代を感じたのは、ラストの岡林の曲だけではない。この映画を見ていると、昔の「赤ちょうちん」や「妹」、「あらかじめ失われた恋人たちよ」などの70年代の若者の青春群像映画を思い出して仕方なかったからだ。それは演出意図かもしれないが、現代の閉塞感があの時代に似ているからなのかもしれない。そんな危機感も感じさせてくれるこの作品、ぜひ多くの若者たちにみてほしい。
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