「人間の業を肩代わりする人形の贖罪の旅路」9 ナイン 9番目の奇妙な人形 ikuradonさんの映画レビュー(感想・評価)
人間の業を肩代わりする人形の贖罪の旅路
2005年のアカデミー賞にノミネートされた短編アニメーション「9」は、あのティム・バートンに「これまでの人生で見た映像の中で、最高の11分間だった」とまで言わしめたらしい。
人形の自分探しと聞いて、何やらカラフルな配色のファンタジーを思い浮かべてはいけない。これは戦争の痕とスクラップしか残されていない世界に目覚めた、人形の過酷な旅物語だからだ。
なによりヴィジュアルが強い。素材感のある麻布がモゾモゾと動く様は、神ゲーとの呼び声高い「リトル・ビッグ・プラネット」のキャラクター、リビッツの7頭身版のようで見ていて飽きがこない。加えて、世界観やそれを構成する分子に余念がない。声優陣も実に豪華でイライジャ・ウッド、ジェニファー・コネリー、アラン・オッペンハイマー、トム・ケイン、クリストファー・プラマー、マーティン・ランドー、ジョン・C・ライリーと個性派揃い。それぞれ素材や作りが異なり、性格もそれと同様に様々で、映画の中盤にはどのキャラクターにも愛着がわいてくる。
ストーリーに特に目覚しいところはない。自分探し→自己発見→自己との対決→自己の喪失→覚醒→成長のような図式はよくあるものだし、それはものを語るうえでの基本形だ。だけどそのシンプルさが、この映画の味付けにはちょうどよいのかもしれない。
人類の抱える負のエレメントを凝縮したような時代設定は見ていて辛いものがあるが、やっぱり我々はそこから目を背けてはいけないのだと思う。ただ、人間ってどうしてここまでずるいのだろう。人形に人間の罪を詰め込んで身代わりとし、無理やり贖罪の旅をさせてるようで、何だか人類のひとりとして申し訳ない気持ちにさえなる。