「真夏の、笑顔」君が踊る、夏 ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)
真夏の、笑顔
香月秀之監督が、「赤い糸」などの作品で知られる溝端淳平、木南晴香を主演に迎えて描く、青春映画。
海外ブランド店舗も、人気アミューズメント施設も無い地方都市に嫌気が差し、東京に飛び出す若者。夢に向かって突き進みながらも壁にぶつかり、道を見失い、途方に暮れながら若者は地元へと帰り、居場所を見つける。青春映画にあって、決して奇抜な設定とはいえない。むしろ、使い古されたテーマといっても良いだろう。
それなのに、本作を観賞後に胸一杯に溢れ出す爽快感はなんだろう。誰にでもある青春の悩みから生まれる焦りに、共感する部分が大きいのもあるだろう。しかし、それ以上に本作に感じる満足度を生んでいるのは、舞台となった高知県のもつ大らかさと、力強さ。そして、魅力的なキャストの味わいだろう。
ご当地映画のあり方を堅実に踏襲している本作。四万十川、城、地元の誇りである「よさこい踊り」と、徹底した地元の魅力披露を余す事無く繰り出している。そして、その全てが「私、すんごい、すんごい魅力やき」と、強烈な存在感をもって画面にせり出してくる。
もう、主役である溝端、木南を差し置いて見ておくれと言わんばかりの大迫力。まさに、高知県の魅力をいかに映せば最大限に観客の心を惹けるか理解した上の撮影だろう。観客は素直に、ほんわかとした安らぎを持って風景の力に引き込まれる。
そして、主演二人を始めとしたキャスト陣の配置。五十嵐の若干どすの利いた田舎男の味わい溢れる男臭さ、宮崎、高島の力強い高知娘の大らかさ。地元エキストラに引けをとらない「地元民」振りがすこぶる新鮮で、温かい。ひねりの少ないシンプルな物語をしっかりと刺激し、動かしていく意欲に満ち溢れ、風景の壮大さに負けていない。
よさこい祭りを軸に、毎日を一生懸命、真っ直ぐに生きる人間の格好良さ、清々しさを丁寧に、柔らかく描いた力作だ。登場する人物が、皆そろって笑顔、笑顔。何かと面倒で、腹立たしい事も多い日常にあって、このような幸せ印の気持ち良い映画だってきっと、あっていい。私は、そう思う。