マイレージ、マイライフ : インタビュー
ジェイソン・ライトマン監督の父は、「ゴーストバスターズ」や「デーヴ」、「6デイズ/7ナイツ」などを手がけるアイバン・ライトマン監督である。映画の道に進もうと決意したとき、父と同じメジャー映画ではなく、インディペンデント映画の世界に飛び込んだのは賢明な判断だった。厳しい環境で揉まれた彼は独自の感性に磨きをかけ、「サンキュー・スモーキング」で長編映画デビューを飾る。第2作「JUNO/ジュノ」は全米で大ヒットを記録し、ジョージ・クルーニーを起用した今作「マイレージ、マイライフ」は監督賞を含むアカデミー賞6部門ノミネートという快挙を達成してしまった。いまもっとも勢いのある若手実力派監督に、ロサンゼルスで取材した。(取材・文:小西未来)
ジェイソン・ライトマン監督インタビュー
「この映画は人生の充足を追い求める男の物語だ」
「マイレージ、マイライフ」は、マイレージに取り憑かれたリストラ宣告人の描くヒューマンストーリーだ。ジョージ・クルーニーに主役を演じてもらうため、ライトマン監督はイタリアのコモ湖にあるクルーニーの別荘に押しかけたという。
「人を解雇することを生業にしている男を主人公にした映画を作ろうとしたら、魅力たっぷりなチャーミングな役者が必要だ。その点、ジョージ・クルーニーを超える役者はこの世に存在しない。ジョージを想定して脚本を書いたくらいなんだ。ずっと前に脚本を送っていたんで、その感想を聞きに彼の別荘に行ったわけなんだけど、着いてみたらまだ読んでいないことが判明した。それで、僕と妻は別荘に滞在し、ジョージとバスケをしながら楽しく過ごすことになったんだ(笑)」
監督夫妻の滞在中に、クルーニーは脚本を読んで、出演を快諾。ライトマン監督は、クルーニーの勤務態度に感銘を受けたという。
「スターのことを『気取りがなくて、地に足がついたナイスガイだ』って言うことがあるけれど、たいていの場合はリップサービスで、ほとんどのスターはエゴの塊だ。でも、ジョージに関しては、本当にナイスガイなんだ。常に周囲に気をつかい、現場の雰囲気をリラックスさせてくれる。おまけに、自分の出番が終わっても、セットにずっと残って撮影を見守っている。自分のトレーラーに閉じこもったりしないんだ。彼ほど、エゴと無縁のスターは初めてだよ」
ジェイソン・ライトマン監督が得意とするのは、シリアスとコメディが入り交じった、絶妙なバランス感覚だ。今回も、リストラという重いテーマを扱いながらも、笑いとぺーソスをうまく織り込むことに成功している。
「映画監督にはぞれぞれ長所がある。デビッド・フィンチャーの場合、どんなショットも芸術的に仕上げてしまう才能があるが、あいにく僕にはない。そのかわり、トリッキーな題材を扱いながら、絶妙のバランスで映画を成立させる才能が僕にはある。『サンキュー・スモーキング』は煙草会社の宣伝活動、『JUNO/ジュノ』では十代の妊娠、『マイレージ、マイライフ』では雇用問題が出てくるが、いずれの作品においても、扱う問題に深入りしすぎないようにしている。僕が映画で伝えたいのはあくまでストーリーであり、一言で言えば、キャラクターの変化なんだ。『サンキュー・スモーキング』は父親になろうとする男の物語、『JUNO/ジュノ』は大人になろうとする人たちの物語、『マイレージ、マイライフ』は、人生の充足を追い求める男の物語だ。孤独な形での幸せを目指すか、あるいは、人との繋がりに価値を見いだすことができるか、という。いったん、映画の核が分かってしまえば、微妙なニュアンスを求められる題材を扱っていようとも、誤ったステップを踏むリスクはぐっとすくなくなるんだよ」