花のあと : 映画評論・批評
2010年3月9日更新
2010年3月13日より丸の内TOEI2ほかにてロードショー
慎ましきヒロインの熱情帯びた“変身”が映画を躍動させる
一連の山田洋次監督作品や「山桜」に続き、またまた登場した藤沢周平原作の時代劇。今回も現代人が見失いつつある“日本人の心”をテーマにした1本だが、「青い鳥」の中西健二監督、主演・北川景子という時代劇初挑戦コンビならではのみずみずしさが息づき、予想外の見どころもある作品となった。
ヒロインの以登は、普段はしゃなりとした令嬢だが、実は男勝りの竹刀の使い手。彼女は手抜きなしで竹刀を交えてくれた孫四郎という剣士に淡い恋心を抱くが、親が決めた別の男との結婚を控えている。そんな以登の秘めたる思いを描くこの映画は、いささかタッチが堅苦しげで、表情の変化に乏しい北川景子もただ不機嫌そうに見えてしまう。
ところが髪をポニーテールにした北川が、白と紺の道着姿で剣を握ると、映画の雰囲気が一変する。派手な音楽やカメラワークで盛り上げるわけでもないのに、突如目の前に現れた凛々しい美女剣士に不思議と胸が躍る。悪党の人の道を外れた行いだけは許せない。一度は愛した男の恩義に報いたい。そうしたヒロインの熱情が静から動へと劇的に転調するアクションとして発露し、北川のコスプレ的変身の効果と相まって、クライマックスの決闘シーンは意外なほど鮮烈なものとなった。
いや、これを“意外”などと言っては、作り手に失礼であろう。端正な桜のシーンで始まり、桜のシーンで閉じるこの映画は、ヒロインの許嫁に扮した甲本雅裕のキャラクターがそうであるように、なかなかどうして“見かけによらず”冒険的な快作なのだった。
(高橋諭治)