キャピタリズム マネーは踊る : インタビュー
「ボウリング・フォー・コロンバイン」「華氏911」といった社会派ドキュメンタリーを世に送り出してきたマイケル・ムーア監督が、08年の世界恐慌を引き起こしたアメリカの金融資本主義を痛烈批判する最新作「キャピタリズム/マネーは踊る」で初来日。「これが最後の作品のつもりで取り組んだ」と並々ならぬ覚悟で挑んだ本作について、ムーア監督が熱弁するインタビューをお届け。(取材・文:編集部)
マイケル・ムーア監督インタビュー
「ニュース番組で報道されないアメリカの違った一面を見てほしい」
――監督が故郷のゼネラルモーターズ工場の大量解雇に怒りを感じて「ロジャー&ミー」を製作して20年。監督はいろんな角度から問題提起し続けてきましたが、この20年を振り返って何を感じますか?
「僕はいつも問題提起するタイミングが悪いんだ。今年ゼネラルモーターズは破綻したけど、僕は20年前に彼らに警告を発する映画を撮っていた。もし僕の警告を聞き入れてくれていれば、こんな状況には陥らなかったかもしれない。『ボウリング・フォー・コロンバイン』でオスカーを取ったときの授賞スピーチでは、『今日でイラク戦争が始まって5日目です。どんなに探しても大量破壊兵器は見つかりません』と言ったら、みんなからブーイングを受けてステージから降ろされた。2年前には『シッコ』で保険制度について問題提起したけど、あの映画はもしかしたら今公開すべき映画で、2年前では早すぎたのかもしれない。
僕は毎回そのとき感じたことを一生懸命伝えようと努力するけど、いつも時期が早すぎてみんなに聞いてもらえず、その結果悪い方向に物事が進んでしまう。僕がもっと違う言い方をしていれば、もっと違うアプローチをしていれば、この状況は変えられたのかもしれない。そんな風に自虐的に考えてしまうんだ。それは僕がカトリック教徒として育った影響があるかもしれないね。
とはいえ、僕はドキュメンタリーの新しいジャンルを構築したという自負もある。たとえば『ロジャー&ミー』以前は、シネコンでドキュメンタリーが上映されることはなかったし、僕の作品がきっかけとなって新しいタイプのドキュメンタリー作家がどんどん台頭してきた。さっきEメールをチェックしたら、この1時間で1000通届いていたんだけど、これは僕の発言力がいかに効力があるかというひとつの証だよね。メールの内容は、僕がオバマ大統領がアフガニスタン進出に対して抗議していることへのサポートだったり、その反対かもしれないけど、とにかく僕が発言したことでこれだけのリアクションがあるのは事実。今日だけで2万通のメールが届くだろう。アメリカがこんなに僕を呼んでいるというのに、僕は今どうして日本にいるんだ(笑)?」
――昨年の金融危機は各国に大きな影響を与えましたが、そのダメージはアメリカと日本では異なるので、本作の印象も異なると思います。日本人に一番見てほしいと思うポイントはどこですか?
「悲しいことに、過去20年アメリカのメディアは国民を無知でいさせようとしてきた。アメリカ人は井の中の蛙のように、世界で何か起こっているのかまったく知らないんだ。たとえば、アメリカ人に地図を見せて日本の位置を聞いても、おそらく半数以上が答えられないだろう。これは驚くべきことだけど、実際ナショナルジオグラフィックのリサーチによると、60%がイギリスの位置を答えられず、イスラエルに至っては80%が知らなかった。アメリカの位置でさえ11%が答えられないという有様だ。さらに国民の80%がパスポートを持っていないんだ。アメリカとはそういう国なのさ。
これを踏まえて、日本の方々にこの映画をどう見てほしいかと言えば、ニュース番組では報道されないアメリカの違った一面を見てほしい。僕はアメリカ人として、多くの人にこの映画を見てもらいたいと願っている。そして僕がいかに心を込めて作った映画なのか理解していただきたい。“お金”と“自分の魂”のどちらが大切なのか考えてもらいたい。単に金儲けのためにこの島国で生きるべきか? または誰かの利益のために身を粉にして働くべきなのか? 暴走するカウボーイのようなウォール街の連中に経済を牛耳らせるのか? もしくは、そのすべてに『ノー』と答えて、元々日本人は自分たちの手でもの作りをしてきた産業国なのだから、今一度その道に戻るべきではないのか? こういったことを自分自身に問いかけてほしいんだ」
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