パリ20区、僕たちのクラス : 映画評論・批評
2010年6月15日更新
2010年6月12日より岩波ホールほかにてロードショー
これは映画だがスクリーンのこちら側の現実でもある
08年のカンヌ。ショーン・ペン審査委員長によりパルムドールを授与された本作は、近年のペンの主演作や監督作に通ずるリアルとフィクションの境目キワキワのところで物語が展開する映画である。パリ20区にある中学校が舞台。俳優経験のない子供たち大人たちが、そこで起こるさまざまな問題に右往左往する。もちろん「ごくせん」みたいな展開はあるはずもない。
原題は「壁の中」なのだという。映画の中では実際に高い壁に囲まれている中学校の中庭がエピソードの合間に映されて、そこで戯れる生徒たちがいつかその外に広がる世界へと出ることになるだろう未来の時間と、一方で嫌でもその中に閉じ込められていなければならない現在の時間とが賑やかに交錯する。そして「パリ20区、僕たちのクラス」という限りなく小さな空間を果てしなく広げていく。
これは映画だがスクリーンのこちら側の現実でもあるのだ。だからこの映画には答もなく解決もない。私たちの誰も正しい人生を示すことが出来ないように、この映画の登場人物たちも不安定で間違いを犯し時には正しくもあり優しくもあり冷たくもある。私たちはただそこで生きるだけなのだ。だからスクリーンの中の彼らは私たちの姿でもあるだろう。壁の外側にいる私たちもまた、見えざる壁に取り囲まれているはずなのだ。その不可視の壁を、この映画は映し出そうとしているようにも見えた。
(樋口泰人)