「秘密のエスターちゃん」エスター かみぃさんの映画レビュー(感想・評価)
秘密のエスターちゃん
自ブログより抜粋で。
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この映画は簡単に言うと、オカルト映画の傑作『オーメン』(1976年、監督:リチャード・ドナー)のダミアンのごとき邪悪な娘・エスターの巻き起こす、それはそれは恐ろしい“度を超したイタズラ”に翻弄される家族のドラマ。家庭を舞台にしたサイコ・スリラーであって、いわゆるオカルト映画とは違う。
外見はかわいらしいのに、いったんスイッチが入ると想像を絶する凶行に走るエスターではあるが、彼女はダミアンのような悪魔の子ではなく、やっていることは一応物理的に人間に可能な行為。
ただ、彼女には観客を仰天させる、ある秘密がある。
なんだけども、実は筆者は、鑑賞前にこの秘密に察しがついてしまっていた。ネタバレしたレビューは避けていたにもかかわらず、目にしたすでに観た人の感想から想像ついちゃって。
そんな経緯もあって、ここではネタバレしないよう、細心の注意を払って言葉を選んでいますが、とにかくその驚愕の事実っていうのが、この映画の印象を決定づけてしまうほどにインパクトのある秘密で、それに触れずにエスターを語ることはなかなか難しい。ネタバレしないよう気を遣っている評論サイトや感想ブログであっても、ついついほのめかす言葉で彼女を形容したくなるのもわからなくもない。
そんなわけで幸か不幸か薄々エスターの秘密に感づいた上でこの映画を観ると、最初の方から思わせぶりなセリフがけっこうちりばめられている。
それどころか彼女の不可解な振る舞いも、おおかた合点がいく。知らずに観るとありえないような彼女の言動も、巧妙な脚本で計算された筋の通ったものだとわかるのよ。
それらは本当なら、秘密が明かされた時点で氷解する伏線のはずだったんだけれども、正直なところあんまり怖く感じなかったのもそういった裏打ちを確認しながら観たせいかもしれない。
それほど怖くなく、作品の肝とも言えるエスターの秘密までも気付いていたからつまらなかったかというと、そんなことはない。
ホラー映画らしからぬドラマ重視の脚本のお陰で、それでも面白く観られた。
幼い末娘・マックスには聴覚障害があって手話と読唇術に長けているとか、ケイトにはアルコール依存症だった過去があり、マックスを池で溺れさせかけたことがあるといった、脚本的な仕掛けや工夫が随所に見られ、一家を巧みに操るエスターの悪知恵も、対する家族の心の機微も説得力のあるものだ。
なにより、すべてを根底から覆すようなエスターの隠す驚愕の秘密は、それと感づいていても唸らされる。彼女を演じたイザベル・ファーマンの子役とは思えぬ怪演もあって、今後語りぐさになるであろう。
エスターを演じたイザベルの巧さは評判通り。天使のような笑顔と悪魔のような裏の顔を見事に演じ分ける、末恐ろしい逸材だ。
また彼女に負けず劣らず驚かされたのが、末娘・マックスを演じたアリアーナ・エンジニアちゃんの自然な演技。劇場用パンフによると、実はアリアーナちゃん自身、聴覚に障害をもっているそうで、手話の自然さはだからこそなんだろう。さらにパンフによると、芝居はけっこう場当たり的な演技だったらしく、前日に何をやったかも覚えていなかったというのが子供らしいところだが、そんな彼女の迫真の演技は一見の価値ありだ。
血の気の低さからホラー映画が苦手という人にも薦めたい見所の多い本作ではあるが、惜しむらくは、エスターの秘密が明かされてからの怒濤のクライマックスがずっと薄暗く、彼女の“正体”をはっきりと確認できなかったことが残念。
闇の中に浮かび上がるおぼろげな彼女の姿は、まさしく“それ”で、それを年端もいかぬ子役が演じているという現実も含め、いろんな意味でおぞましい。その姿、もうちょっとしっかり見たかった。
かくも怖いもの見たさで見たくなるのが、女性の素顔でありますから。