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⚪︎作品全体
とにかくカッコ悪い作品だ。
主人公・MC IKKUはニートのなんちゃってMC。カタチはいっちょまえなのにラッパーでいることでぼんやりとアイデンティティを保っている。彼はすぐ田舎であることを理由に現状をボヤくが、都心まで電車で1時間ちょっとの位置関係だ。この中途半端さがまたダサい。
そしてその姿は最後までカッコ悪い。肝心のラッパーとしても我を通すことができず、観客を向けてバースを放つこともできない。市主催の冷めた会場といえど、あまりにも情けない。高校で同級生だった千夏にも「ダサい」「宇宙人か?」と一笑され、先輩にも中途半端な反抗しかできず、無様に荷物をまとめてたまり場からいなくなる。千夏が地元を離れるところでようやくご飯へ誘おうとする姿も、惨めでしかない。
ワンカットが長めなカッティングも、その惨めさを助長させる。すこしクドさはあれど、MC IKKUの空虚さを巧く演出していた。市主催のイベントでの質疑応答はもはやドキュメンタリーのような冷徹さでダサさを描き出していて、容赦がない。
ただ、ラストシーン。
このフリースタイルも、冷笑的に見てしまえば「なにやってんだこいつら」と感じるカッコ悪さだ。でも、MC IKKUとMC TOMがポツポツとつぶやきながら始めたライムは、間違いなく心の叫びだ。負け組として消えていってしまいそうな彼らが、もどかしさとやるせなさのなかに作り上げていく、魂の結晶だ。
今まで外見だけそれっぽく見せてきた二人が、エプロンと作業着をまとって無様なバースを晒す。でも、それでいい。ここで冷笑は不要だ。この「カッコ悪いかっこよさ」を心で受け止めてやりたい。そんな気持ちになって、心が揺れた。
これでスター街道へ進むわけでもないのだろう。でもそれでもいいじゃないか。
ただカッコ悪いだけの彼らが、なにかを始めるのかもしれないのだから。
そのカッコ悪い情熱が、少しかっこよかったのだから。
◯カメラワークとか
・ワンカットの長さをどう取るかでつまらないとも感じるし、実直とも感じる。コメディチックなシーンはもう少し短くても良かったような気がする。
ラストシーンはむしろあれが最高だ。冷めた感情が他の店員や作業員を置き去りにして沸々と湧き上がってくる。そんな二人を余すことなく見せつける。これが最高だ。
◯その他
・セーブオン、懐かしい…。牛丼350円、安い…。
・深谷っていうほど田舎か?って思うのは同じレベルの田舎にいるからだろうか。2,30分あれば熊谷にも高崎にも行けるし、行けばレコード屋もあるしなあ、みたいな。今の深谷は駅も役所もきれいだし、アウトレットもあるしショッピングモールもあるから全然便利だよなあ、みたいな(かっこよさとは関係ないか…)。
・公民館の会議室みたいなところでラップやれっていうシーンがお気に入り。あの公的施設っぽい会議室、素晴らしい。そしてなにより質疑応答の3人目のおじいちゃんは素晴らしすぎた。無駄な前置きとかイマイチまとまってない質問とか揚げ足取ってくる感じとか、ああいうジジイいるよなあ、っていうところを鋭く突いてる。リアルすぎてあそこだけ本当にドキュメンタリーっぽかった。