倫敦から来た男のレビュー・感想・評価
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タル・ベーラのノアール
主人公の薄い後頭部とゴワゴワの外套の背中を見つめているうちに、いつしか鑑賞者も彼の共犯者になっていく。
メトロノームのような音、カンカンと何かを叩く音、そして肉を包丁で叩く音。絶えず流れる不穏なリズムに、平凡な暮らしの主人公の緊張感が響く。
妻に対する振る舞いは身勝手で下劣で愚かしい。ティルダはその瞳に悲しみ、嘆き、絶望感、込み上げる怒りと憎しみを滲ませて一点を凝視する。
さて、事件を仕切る老刑事が言う。金の持ち主は金が無事に戻れば礼金まで渡すと。
終盤、老刑事らのカフェでの会話で、倫敦から来た男の名前を知った主人公は、海辺の小屋に隠れている男に呼びかける。「ブラウン!ブラウン!」
異国で自分の名前を呼ばれた男は、本国の捜査員に見つかったとパニックし闖入者と揉み合いになったのだろう。逆に殺害され、主人公の正当防衛という完全犯罪が成立する。
老刑事も無用に事を荒立て、貧しく平凡に生きている市民を刑務所に入れても仕方ないと考えているようだった。
正当防衛で夫を殺されたイギリス人の妻は、わずかな金を受け取る気になれず空をジッと凝視する。
二人の妻の息苦しくなるような長い凝視が印象的。イギリスとフランス両国の男たちが作った社会の内側で、女たちの悲しみは共通しているようだった。
そういえば寝室に鳥籠があった。鉄道、船舶、貨幣社会という経済発展の条件を整備することを鳥籠、その中にいる人間を鳥だとすると、イメージが繋がった。
☆☆☆★★ ※ 鑑賞直後のメモから 冒頭のワンシーン・ワンカットの...
☆☆☆★★
※ 鑑賞直後のメモから
冒頭のワンシーン・ワンカットの長廻しから【フィルムノワール】の匂いがプンプン漂って来る。
秀逸なカメラワークと相まって、ゾクゾクとして来る。
映画全編がモノクロだけに、映画とは《光と影の芸術》で或るのを再認識させられる。
しかし…。
このリズム感での2時間20分は流石に辛らった(´-`)
映画自体はとても面白かったのだが。延々と続くワンシーン・ワンカット。それにあの繰り返される音楽。朴訥と話す台詞廻しの相乗効果で、終盤では遂にウトウトっと…。
まさに痛恨の極みでした💧
2009年12月27日 シアターイメージフォーラム/シアター2
なぜこんなにも怖い、と思うのか。
すごくシンプルで、重厚な映画でした
余計なものはいっさいなくて
だけど
静寂の中に浮かび上がる緊張感はすさまじいものが。
ほぼそれだけで
2時間半近く、見せてしまう。
ただすごい、のひとことでした。
刑事のゆっくりとしていて冷静で、どこか冷たい、
でも正しい語り方が、怖いようでなぜかほっとしました
娘のなんだかまぬけな表情と、
最後の、「倫敦から来た男」の妻の表情を追うシーンがよかった。
残酷なシーンはまるでないのに、
恐ろしい、と思わせてしまう
観客の心理をついた演出がすばらしいです
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