「大きな事件でなくてもこれだけ盛り上げる演技と演出の良さ」ダウト あるカトリック学校で Cape Godさんの映画レビュー(感想・評価)
大きな事件でなくてもこれだけ盛り上げる演技と演出の良さ
総合:75点
ストーリー: 70
キャスト: 85
演出: 80
ビジュアル: 70
音楽: 65
もちろん当事者にしては十分に大きな事件だが、殺人や強盗があふれている映画の世界において、主題としては意外なほど小さな出来事である。それなのにこれだけの緊迫感を保てる出演者の演技と演出の質が全体に高くて驚いた。
ボールペンの使用一つをとっても口うるさい強情な校長が、一度疑いを持ってしまえば、神に背こうが自分の職を失うことになろうがとことんやるのだという信念の強さが伝わってくる。そのためには嘘もつくし正面切って追い込み脅迫じみた言動をもじさない。本当はそれによって自分をも追い込んでいて、思わず最後に弱さと涙を見せても、決して強気の姿勢を相手の前では崩さない。神父との対決の中で彼女が告白した「過去の過ち」があるから、今度は過ちを犯さないのだということを示しているようだ。真実がはっきりわからない状況で、そのような意思の強さ、交渉のうまさがはっきりと理解出来て楽しめた。
疑いはあるものの、真実はわからない。校長は前歴を調べて前の職場のシスターに聞いたと言ったら神父が引き下がったから、神父はやっていたのだと判断した。だが神父にしてみれば、校長に疑いをかけられしつこく調査をされれば、本当はやってなくても周囲の人はやったと思い込むであろうことを恐れるだろう。この映画の視聴者だって、多くの人が神父はやったと思ったのではないだろうか。そうなれば神父としての職歴に致命傷となるかもしれない。それならばたとえやってなくても、自分の傷が浅いうちに身を引いてそれ以上の損害を避けただけという可能性も残されている。
その曖昧さの残る中で、登場人物のそれぞれの考えや決断が興味深い。現実社会だって何もかもがはっきりしているわけではないのだし、ましてこれは警察や裁判の話ではないのだから、そのような情報も証拠も限定された状況の中で判断を下さなければならないということが、現実社会の難しさを表現している。
また少年の家庭環境の複雑さ、そして社会一般で悪いと思われていることが、必ずしもそうとは言い切れないという状況の複雑さの設定もよく考えられていた。