劇場公開日 2009年11月14日

「実力派女優らが体現する『終わらない戦争』」ゼロの焦点 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5実力派女優らが体現する『終わらない戦争』

2009年11月17日
フィーチャーフォンから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

『ヴィヨンの妻』で見事な表情を見せた広末涼子だが、本作での演技は一本調子でイマイチ。華はある女優さんだが、主演を務めるには……ウーム。
説明過多なナレーションも耳につき、彼女が1人で映画を引っ張る序盤はどうも気持ちが乗り切らない。

だが中谷美紀が登場した途端、映画全体がグッと引き締まる。役柄が乗り移ったかのような凄まじい演技は必見。
木村多江も他2人より短い出番ながら、最後の最後で見せ場をかっさらう見事な『泣き笑い』で魅せる。

「もはや戦後では無い」と声高に謳われた高度成長期の日本。希望に満ちた新たな時代を生きたいと願いつつも、戦争の影に苛まれ続けた人々の物語。
時代に翻弄された女達の末路が描かれる終盤の展開に泣いた。

だが、未だに戦争の影を引き摺っていただろうこの時代全体の悲しみまでは描ききれなかった感がある。
戦後の描写はあっても戦時中の描写が皆無なのだから。
例えば事件の軸である鵜原憲一の場合、従軍経験が彼の性格に影を落としているのは明らかだが、その過去は描かれない。そのため彼が取る行動の動機も弱く感じられた。

タイトル『ゼロの焦点』の意味は僕には掴めず終い。
この機会に原作も読んでみようかな。

浮遊きびなご