アベンジャーズ : 映画評論・批評
2012年8月7日更新
2012年8月14日よりTOHOシネマズ日劇ほかにてロードショー
エージェント・コールソンこそが、もっとも重要な存在である
映画「アベンジャーズ」でもっとも重要な存在は、鋼鉄の鎧をまとった無敵のアイアンマンでもなければ第2次世界大戦の超人兵士キャプテン・アメリカでもない。もちろん北欧神話の世界から抜け出してきた雷神ソーでも、怒りに駆られて暴れはじめると誰にもとめられないはた迷惑な超人ハルクでもない。彼らスーパーヒーローたちの活躍は派手に痛快に壮絶に描かれる。監督ジョス・ウェドンはそれぞれのヒーローに見せ場を用意している。アイアンマンとソーとキャプテン・アメリカの三つどもえの衝突は、巨人同士のぶつかり合いの迫力をたっぷり味あわせてくれる名場面である。だが、それだけではこの映画は画竜点睛を欠いていたかもしれない。
これだけのヒーローをまとめて敵にまわすのだから悪漢の方もそれなりの存在感が必要だ。邪神ロキ役のトム・ヒドルストンは、前作「マイティ・ソー」以上に悪に徹し、気持ちよい暴れっぷりを見せつける。下手をすればヒーローたちが寄ってたかってリンチにかける展開にもなりそうなのに、奸知とパワーで圧倒し、悪の魅力をふんだんにふりまくハンサムは、映画を盛り上げる好敵手である。
だが、それでもまだ足りない。
「アベンジャーズ」を支えるのは超常パワーを持たない普通の人間たちである。S.H.I.E.L.Dのエージェント、コールソンは伝説の英雄、キャプテン・アメリカの大ファンだった。第2次世界大戦中に発行されたトレーディング・カードをコレクションしている彼は、キャプテンのコスチュームを自らデザインし、おずおずとカードを差し出してサインを求める。コールソンこそコミックファンの代表であり、観客みながくすぐったい思いを感じながら感情移入してしまう存在なのだ。そしてコールソンのおかげで、キャプテン・アメリカは真のリーダーたることを決意する。ジョス・ウェドンのコミック愛を反映したエージェント・コールソンこそが、巨人だらけの映画におけるもっとも大事なピースなのである。
(柳下毅一郎)