花の生涯 梅蘭芳 : インタビュー
カンヌ国際映画祭パルムドールに輝いた「さらば、わが愛/覇王別姫」から15年、チェン・カイコー監督が再び京劇を題材に、ひとりの伝説的俳優、梅蘭芳の壮絶な人生を描いた「花の生涯/梅蘭芳」。このたび、カイコー監督が来日を果たし、作品への思いを語ってくれた。(取材・文:平井万里子)
チェン・カイコー監督インタビュー
「観客にいい映画を見てもらいたいという思いこそ、私の原動力」
――作品を通して、梅蘭芳に対して新たに発見したことはありますか?
「“矛盾”を抱えた人物だということです。彼は、ロマンチックな愛情にあふれている一方、内面では恐怖と闘っていますし、勇気も持ち合わせていますが、彼の尊厳のためにあるような勇気でしかありません。また、社会的に有名な人物であるにも関わらず、心の中では常に個人の自由を求めている人物でした」
――梅蘭芳の若い頃を演じたユイ・シャオチュンが非常に印象的でした。
「映画出演は初めてだったので、撮影前の7カ月間、チャン・ツィイーも通っていた中央戯劇学院で、演技指導を受けさせました。撮影中も新人扱いはせず、厳しく接しましたね。結果的に、ユイの演技は高い評価を受けていますが、それは彼個人の努力の賜物ではなく、映画に携わったチーム全体の努力の成果。彼には『これは君にとって単なる初演作に過ぎない。これからはもっと努力しなくてはいけないよ』とアドバイスしました」
――記者会見時、日本軍人の田中を演じた安藤政信さんが「監督のすさまじい美意識に驚いた」と語っていましたが。
「時間をかけて構想を練る中で、特に照明などの雰囲気づくりにはこだわりましたね。梅蘭芳の熱心な支持者であるチウ(スン・ホンレイ)と田中が話すシーンがあります。当時は日中戦争に突入し、2人は本来敵国同士のはずですが、梅蘭芳の理解者という点で分かり合っている。ですので、照明は、人間性あふれる光をあてました。映画の魅力というのは、さまざまなディテールの集大成で生み出されるものだと思っています」
――映画監督にふさわしい素質や条件はなんだと思いますか?
「非常に難しい質問ですね(笑)。私個人として考えるのは、いい作品を撮るにあたっての時間、すなわち忍耐力が必要ではないでしょうか。現代は早く作品を仕上げることが流行りですが、やはり自分の作品を愛するのであれば、もっと時間をかけるべきだと思っています」
――周到な準備と忍耐力を注いで映画をつくる、その原動力はどこにあるんでしょうか?
「以前、京都で竹細工のお店に入ったことがありました。竹で編んだ小物を手に取ると、とても精緻に出来ていて驚きました。私も若い頃、(竹の宝庫といわれる)雲南省にいましたが、竹からこんな工芸品が生まれるとは考えたこともなかった。そこでふと考えたんです。“職人はなんのために竹を編んでいるのか。思想でもあるのだろうか”と。その職人の作品から、私は彼の“心”を感じました。彼の作品は私を満足させ、僕の満足が彼に喜びを与えた。映画もそうだと思いませんか? 観客は映画の中に監督の姿を見ることはできません。ですが、監督の“心”を読み取ってもらえたら、こんなに嬉しいことはありません。観客のみなさんにいい映画を見てもらいたいという思いこそ、私の原動力なんです」