劇場公開日 2009年3月7日

  • 予告編を見る

花の生涯 梅蘭芳 : 映画評論・批評

2009年3月3日更新

2009年3月7日より新宿ピカデリーほかにてロードショー

大河ドラマの醍醐味を純粋に味わうべき娯楽映画

画像1

チェン・カイコーの新作は、出世作「さらば、わが愛/覇王別姫」を思い起こさせる京劇役者の物語である。しかし舞台が1920〜30年代、日本占領下でのエピソード、愛と役者稼業のあいだで揺れる女形の軌跡、と数々の類似点はあっても、15年前の「さらば〜」とは確実に異なる。それは本作が現在の観客の嗜好、映像センス、テンポに合わせて撮られているからだ。最近のチェン・カイコーは大衆を大きく意識するようになったのか、商業映画的手法の追求を怠らない姿勢が見受けられる。

しかし昔から変わらない特性もある。作品を見ていて、流れていく時代や人々を俯瞰で眺めているように感じさせる点だ。それは人となりを直接描くのではなく、人の置かれた環境を描くことで人を見せるからだろう。だから彼の作品を見ていると、登場人物に感情移入するというよりも、時代や状況に翻弄された人々の“物語”の方が強く焼き付けられる。本作のような大河ドラマや歴史もので本領を発揮する理由はここにある。

本作でも、梅蘭芳の人生についての物語でありながら、主人公の人格に切り込んでいくのではなく、まるで彼を取り巻く人々の方が主役のように、周囲の人々や時代に重点を置いている。希代の女形が恋した相手が、男形の人気女優(チャン・ツィイー)という実話の面白さや、義兄弟役のスン・ホンレイの熱演も実に見ごたえがあるが、やはり大きくひっくるめた形での“物語”が一番の魅力。難しく考えずに、大河ドラマの醍醐味を純粋に味わうべき娯楽映画だ。

木村満里子

Amazonで今すぐ購入

関連ニュース

関連ニュースをもっと読む
「花の生涯 梅蘭芳」の作品トップへ